【セミナーレポート】ストレスに強い人材マネジメント・育成によるウェルビーイング経営の実現
先日、ストレスチェック サービス「PRAS」と 内発的動機づけ要因を可視化するアセスメント&サービス「Attuned」を組み合わせ、ストレスに強い人材、生産性・モチベーションが高い人材の見極めおよび人材育成に活用する取り組みについて、医療産業研究所 代表取締役社長 梅本哲様、Attuned日本事業責任者 飯田蔵土による公開ディスカッションを行いました。その際の様子を今回もレポートしていきます!
個人のストレス対処能力「SOC」を伸ばす
医療産業研究所で提供しているストレスチェックPRAS(Preventive Risk Assessment System)では、NIOSH(アメリカ国立労働衛生研究所)職業性ストレスモデルに基づいた、仕事のストレス要因・個人のストレス対処能力・心身のストレス反応の3つを構造的に把握していきます。PRASの最大の特徴は、厚生労働省の職業性ストレス簡易調査票との決定的な違いは、自己信頼度(SE)と前向き度(SOC)を測れることにあります。
同じようにストレスがかかる仕事でも、「うまく対処できる人」と「すぐに潰れてしまう人」がいます。その違いは、個人のストレス対処能力「SOC」の高さにあります。 SOCは、有意味感(意味を見いだす力)・把握可能感(見通す力・段取り力)・処理可能感(できると思える力)の3つに構成されます。その3つの中でも、有意味感はモチベーションの原動力にもなります。どのようなことにも意味を見いだし、様々な状況に柔軟に対応することができるものです。
ウェルビーイング経営の鍵
まずパフォーマンスの仕組みについて簡単にご説明します。パフォーマンスが下がるというのは、とりわけ発揮能力が下がることと定義しています。先ほどお話しましたSOCの3つの要素がそれぞれどれだけ低下しているかが、パフォーマンスの低下のひとつ指標となっています。パフォーマンスの低下は、リスク者比率を悪化させ、メンタルヘルス不調者や休職者の発生に繋がります。したがって、パフォーマンスの低下をいかに素早く察知するかが重要となってきます。
これまでメンタルヘルスの領域では、マイナスをゼロにするという動きが主流でした。しかしこれからはゼロをプラスにすることがテーマではないかと考えます。ただメンタルヘルス不調者や休職者を減らすことを目的とするのではなく、個々人のパフォーマンスを高めていく、あるいはそのような人材を育てていくことで、自己成長と職場の生産性の両立を可能にすることが大切となってくるでしょう。そのように考えますと、ウェルビーイング経営の鍵は、パフォーマンスを上げていく、つまりはSOCとりわけ有意味感について向上させていくことが非常に重要と考えます。
(医療産業研究所 代表取締役社長 梅本哲様)
内発的動機を活用して有意味感を生み出す
近年、価値観の多様化が進んでいます。「なぜ私は今この会社にいるのか」という問いの答えが明確でなければ、会社や組織から簡単に離れてしまうのも現状です。業務命令などによって社員を会社や組織の思うように従わせるのは難しいです。個人のパーパスと組織のパーパスを一致させること、個人のやりたいことややりがいを、会社や組織の方向性とうまく合致させていくことが、今後必要なマネジメントとなってきます。そのためには「内発的動機」が非常に重要なキーとなってくると考えています。
内発的動機は、一言で言ってしまえば「やりがい」という言葉で片付けられるかもしれません。しかし内発的動機は人それぞれによって様々に異なります。加えて自分自身の内発的動機が何なのかを理解することは難しいですが、ブラックボックスのように他人からも非常に理解しづらいものです。Attuedではその内発的動機を可視化し、他人からも見えるものとします。
例えば会社やチームで必要となった資格を社員に取ってもらう際に、いかに有意味感を生ませるためにはどうすれば良いでしょうか。社員の内発的動機(やりがい)が理解できていればどうでしょう。具体的には、自己の成長をやりがいとしている社員に対しては「自身の成長にきっと繋がるので、ぜひこの資格を取得して欲しい」という声をかけてみたり、利他性と言ったような組織や他者のために貢献することをやりがいに感じる社員には、「あなたがこの資格を取得してくれると、チームがとても助かる」とお願いすると、自然とその資格を取る意義「有意味感」をもたらすことができるのではないでしょうか。
(Attuned日本事業責任者 飯田蔵土)
登壇者対談
飯田)有意味感というのは、年齢とともに変化をするものなのでしょうか?
梅本)有意味感は、仕事の経験値を積むことに伴って高まります。性格的なものではなく、能力なので、伸ばすことができます。経営者の方などはSOCが高いことが多いです。
飯田)梅本さんからご覧になられて、有意味感と我々Attunedがキーワードにしている内発的動機をどのように結び付けられるとお考えでしょうか?
梅本)Attunedの面白いところは、やりがいのスイッチを可視化して、外側でなく内側からアプローチできるという点だと思っています。
飯田)有意味感というのは長年の経験とともに向上すると先ほどおっしゃっていましたが、では自分自身で特徴を捉えて、意識的に仕事に対して意味を見出すことができるということでしょうか?
梅本)自覚できているか否かはまた別で、自覚していなくとも自然にできている方が多いと思います。
飯田)確かに経験が浅い若手のうちは、仕事になかなか意味も見出せず、迷いも多いですよね。一方で仕事と自分自身の関係性についてしっかり意義づけられている人は、恒常的に仕事に前向きになれるのですかね?
梅本)有意味感・把握可能感・処理可能感をストレスチェックの文脈で見てると、「ストレス対処能力」と表記されていますが、実は本来の能力の一部分しか説明していません。仕事に関わりながら面白さや新しい意味を発見したり(有意味感)、この方向で取り組むとどうなるのかを考えたり、仮説を立てたり(把握可能感)しながら、ある意味楽しんで試行錯誤できる人の方が「伸びしろ」が大きいと言えます。そのように取り組む人は、そもそもストレスをストレスとして感じにくいものです。
飯田)先天的ではなく、スキル的であるという点も非常に興味深いです。自分自身でうまく前向きになれるポイントが分からなくとも、例えば我々が紹介しましたAttunedのようなツールを使って自身の内発的動機を発見する・内省できるようになると、スキル的にも伸ばせるということですかね?
梅本)そうだと思います。ぼんやり考え取り組むよりは、自分で有意味感・把握可能感・処理可能感をしっかり意識して仕事に取り組む方が「伸びしろ」を期待できるかと思います。
PRASとAttunedの相互作用
事業開発担当者)今後医療産業研究所のPRASとAttunedがどう組み合わさると良いかを簡単にではありますが考えてみました。テーマは可視化という観点です。
PRASのメリットは、現場を直接見る機会の少ない経営層に対して組織構造やメンタル不全者を出さないための施策などを数値化して提案することを得意分野とします。しかし例えば人間の永遠の悩みとして、人間関係が悪い職場というのがあると思います。PRASではそれが職場内で生じているのか、職場外または社外との関係性の中で生じているのかといった主に構造面から解明することができますが、Attunedはそこを一歩踏み込んで、個々人の関係性から説明することで、相互理解を積み上げていける点が、PRASとの相性、相互補完性が高いところですのかまでを解明するところです。
Attunedを使用すると、まずは自身の特性を知る(自己理解)ことができます。次に同僚の特性を知り(他者理解)、1on1ミーティングなども活用しながら(相互理解)、人間関係性の高い職場づくりを実現し、生産性の向上を目指せるようになります。
まとめ
飯田)マイナスをゼロにする従来型のアプローチを超えて、PRASがゼロをプラスにしていくことに貢献できるというのは面白いと思いますし、また漠然とした精神論などではなく、スキルという観点で捉えられていた点が、ストレスチェックが新たな”攻め”の施策にもなるということが学びとして得られました。
事業開発責任者)PRASとAttunedの目指すべきところや、両者の特徴の相違点などに改めて気付けた良い機会でした。Attunedはサーベイの結果を得て、自信を持って自身の特性を主張できる点、PRASは組織の経営層の方に集団の特性を数値で提示できるという点がそれぞれの強みだと思います。
梅本)これからの人事・人材育成が、経験と勘ではなく、エビデンスに基づいて進めることがスタンダードになるのではないでしょうか。AttunedやPRASはモチベーションやストレス対処能力などについて個々人や集団の特性を可視化していきます。データドリブンな人事マネジメントへのシフトが期待できます。
登壇者略歴
梅本 哲 株式会社 医療産業研究所 代表取締役社長
1986年 医療分野における調査・コンサルティングに特化した専門企業として、医療産業研究所を設立。以来35年にわたり、中央官庁、地方自治体、公益法人、大学等教育機関、官民研究機関、医療機関・団体、民間企業等、幅広いクライアントから、保健・医療・福祉に関する多様なテーマでの調査依頼を受託。
2003年 筑波大学と産学協同で開発したストレスチェックツール(PRAS)を基軸に、メンタルヘルス事業へ参入。2015年 ストレスチェック義務化を経て現在に至る。
飯田 蔵土 Attuned 日本事業部長(EQIQ株式会社)
新卒でHPにSEとして入社し、その後米国本社経営企画部門へ異動。複数の大手外資系企業にて戦略コンサル、事業部長、オペレーションズ本部本部長などを務め、AIベンチャーへの参画を経て現職。FAX注文書の入力から、多国籍企業間のM&A、営業、FP&Aまでカバーする。一橋大学大学院修了(MBA in Finance)