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外的動機づけとは?「アメとムチ」は本当に効果的なのか?

一般的には、外的な動機づけ要因は、パフォーマンスを効果的に高めるドライバーであると考えられています。実際に、給与や肩書きは会社に対する従業員の価値を示す主要な指標です。また、懲戒処分や解雇の脅威は、特定の基準や目標を達成できなかった場合に明確で否定的な結果をもたらします。

しかし、もう少し深く掘り下げてみると、自明のように見えるこれらは、何か他のものに見えはじめます。

外的な動機づけ要因が創造性に有害な影響

 過去50年間の研究に基づいて、様々な状況、特に創造性や想像力を必要とする状況では、外的な動機づけ要因が限定的または有害な影響を与える可能性があるという圧倒的な証拠があります。

 この考え方は、マーク・レッパー、デビッド・グリーン、リチャード・ニズベットによる1973年の有名な研究論文、『外的な報酬による子どもの好奇心の解明:“正当化効果”の仮説研究*1』にまで遡ります。

 子どもたちにペンで絵を描くことを依頼し、ひとつ目のグループには絵を描いた後に少額の報酬を与えますが、ふたつ目のグループには報酬を与えません。次に、子どもたちに報酬なしで再びペンで描く機会が与えられたとき、報酬を受けたグループの子どもたちは再び描くことに興味を低下させた一方で、報酬を受けていない子どもは以前と同じように取り組んだことを研究者たちは発見しました。

 この結果は、心理学の世界では「過(剰)正当化効果」として知られており、外的な動機づけが、人々が持っている内発的動機を否定するプロセスとなることを指します。

ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるテレサ・M・アマビールの研究もこの分野で影響力を持っています。

 1982年の研究論文『子どもたちの芸術的創造性:競争環境の有害な影響*2』では、2つのグループでコラージュ(写真などを切り貼りした作品)をつくってもらう実験をしました。

 第一グループの子どもたちは、コラージュを作り終えた後に賞品の抽選会があることが知らされており、第二グループの子どもたちは、大人がコラージュを審査し、評価された3つの作品に賞品が与えられることが知らされていました。

 出来上がったコラージュを美術学生によってブラインドで審査したところ、第一グループの子どもたちは第二グループの子どもたちよりも有意に創造性が高いと評価され、外部動機づけが創造性を弱めることが示唆されました。

アマビール教授のもうひとつの研究、『モチベーションと創造性:創造的な作家に対する動機づけのオリエンテーションの効果*3』では、創造的な作家に詩を作曲するように依頼しました。

 その後、ふたつ目の詩を書く前に、彼らの本質的動機について、内発的動機(言葉遊びが好きなど)と外部動機(支払いや世間からの評価など)のどちらかを重視しているかを問うアンケートに記入してもらいました。

 最初に書いた詩の創造性に有意な差はありませんでしたが、外部動機について考えるように導かれた人は、ふたつ目の詩の創造性が著しく低下していました。

 これらの研究とその後の他の研究を引き合いに出して、アマビール教授は、「私の実験では、人をコントロールされていると感じさせたり、その動機だけで動かされていると感じさせたりする外部動機は、内発的動機を流出させ、創造性を阻害することが示されている」と結論づけています。

外部動機がチームワークと創造性を阻害

多くのさらなる研究がこの仮説を再確認しています。

 クリストファー・P・セラソリ、ジェシカ・M・ニックリン、マイケル・T・フォードによる2014年の研究『内発的動機と外部インセンティブの組み合わせによるパフォーマンス予測:40年間のメタ分析*4』では、40年以上の研究で収集された、154のソースと212,468人の回答に基づいて、外部動機がチームワークと創造性を阻害することを明らかにしました。特に、外部動機は「認知の焦点を狭め、行動Xを強く促し、目標に向かって行動を強化する」と指摘しています。

 さらに、研究者たちは、インセンティブが大きくなるにつれて......チームワークや創造性が阻害され、内発的動機とそのパフォーマンスへの重要性が排除され、非倫理的または逆効果の行動がより可能性が高くなる可能性があることを発見しました。

 バード・クバース、ロバート・バッハ、アントニエッテ・ウェイベル、アンダース・ディスヴィック、クリスティアナ・G・L・ナスタッドによる2017年の研究『内発的動機と外的な動機は、従業員の業績の差異を評価できるのか?*5』では、職場における外的な動機づけの効果に関してさらに厳しい評価を与えています。

 彼らの調査結果によると、「外部からの動機づけは幸福度の低い状態につながる」、「人生の満足度や幸福との負の関連性を持っている」、「仕事と家庭生活の間のより多くの対立が激しくなり、人々が離職する可能性がより高くなる」、さらに「外部動機づけを増加させることは、個人と組織のどちらにも有利に働かない」と結んでいます。

 しかし、外的な動機づけにも全くメリットがないというわけではありません。

 前述の40年間のメタ分析が明らかにしたことは、退屈で反復性の高い仕事には、外部報酬による動機づけが効果の高いインセンティブとして機能することがあります。

「単純で反復性が高く、本質的に楽しいとは言えないような仕事は、インセンティブとより密接にリンクさせるべきである。」といいます。例えば、パフォーマンスに応じた給与の支払いは、掃除のような比較的簡単な仕事の生産性を向上させることがわかっています。

 また、クバースらは、「単純で標準化された」タスクでは、外部動機づけが使用された場合、より高いレベルのパフォーマンスを示した、と結論づけました。一方で、外部報酬は、人々が以前は興味がなかったタスクに参加する動機づけや、少なくとも短期的に新しいスキルや知識を学ぶ動機づけを得ることはできませんでした。

内発的動機づけを補完するために外的動機を利用

しかし、アマビール教授はカリフォルニア大学バークレー校のGreater Good Magazineに寄稿した小論『作業環境があなたの創造性にどのように影響するか*6』ではこのように説明しています。

外的動機である報酬を、内発的動機づけを補完するために使用した場合、最も効果的であるようです。彼らがすでにやりたいと思っていることや、能力を追認する場合の報酬は、相乗的に内発的な動機と創造性を高めることができます。 その絶妙なバランスこそが、職場が目指すべきものです。」

 では、この研究は雇用者にとってどのような意味があるのでしょうか? 簡単に言えば、内発的な動機づけよりも外部動機づけを優先させる人は、馬の鼻先にニンジンをぶら下げるようなことを自ら行っているようなものです。実際には馬はそのようなことで走り始めない、にも関わらず。

*1 Mark Lepper, David Greene and Richard Nisbett “Undermining Children’s Intrinsic Interest with Extrinsic Reward: A Test of the ‘Overjustification’ Hypothesis” 1973

*2 Teresa M. Amabile(1982) “Children’s Artistic Creativity: Detrimental Effects of Competition in a Field Setting”

*3 Teresa M. Amabile(1985) “Motivation and Creativity: Effects of Motivational Orientation on Creative Writers”

*4 Christopher P. Cerasoli, Jessica M. Nicklin, Michael T. Ford.(2014) “Intrinsic Motivation and Extrinsic Incentives Jointly Predict Performance: A 40-Year Meta-Analysis”

*5 Bard Kuvaas、Robert Buch、Antoinette Weibel、Anders Dysvik、Christina G.L. Nerstad “Do Intrinsic Motivation and Extrinsic Motivation Relate Differently to Employee Outcomes?” 2017

*6 “How Your Work Environment Influences Your Creativity” UC Berkeley’s Greater Good Magazine

Attunedホワイトペーパー『モチベーションを高める動機づけの最先端〜従業員の内発的動機を理解することが変化を乗り切るビジネスの鍵』より

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