プロフリークライマー野口啓代さんのモチベーションに迫る

 
 

昨年12月16日に行われたNumberビジネスカンファレンス≪ 最強の「チーム」を創る、最高の「パフォーマンス」を引き出す 勝利の方程式≫にて、スポーツとビジネスの共通点を多様な視点から紐解き、「勝者の条件」「変革者の条件」「イノベーターの条件」「リーダーの条件」などについて、弊社CEO Casey Wahlがフリークライマーの野口啓代さんと対談しました。


 

野口啓代

フリークライマー

小学5年生の時に家族旅行先のグアムでフリークライミングに出会う。
クライミングを初めてわずか1年で全日本ユースを制覇、その後数々の国内外の大会で輝かしい成績を残し、2008年には日本人としてボルダリング ワールドカップで初優勝、翌2009年には年間総合優勝、その快挙を2010年、2014年、2015年と4度獲得し、ワールドカップ優勝も通算21勝を数える。
2018年にはコンバインドジャパンカップ、アジア競技大会で金メダル。2019年世界選手権で2位。自身の集大成、そして競技人生の最後の舞台となった東京2020大会では銅メダルを獲得。今後は自身の経験をもとにクライミングの普及に尽力し、また「Mind Control」(8c+)、「The Mandara」(V12)を凌駕するような外岩の活動も積極的に行う。

 
 

Casey Wahl(ケイシー・ウォール

EQIQ株式会社(Attuned運営会社) 創業者 CEO

NY生まれ。幼少から中学生までサウジアラビア、アメリカで高校・大学を過ごし、22歳で来日。2010年、人材紹介会社のウォールアンドケースを創業、現在EQIQとしてAttunedを自社開発・運営。著書『未来をつくる起業家』はAmazonで総合1位を獲得。2019年に公開した映画「Startup Girls」ではExecutive Producerを務めた。The University of Texas卒業、IE Business SchoolにてMBA取得。

 
 

飯田 蔵土
Attuned シニア セールスマネージャ

日本HPでSE(電子マネーに関するBizモデル特許取得)としてキャリアをスタートさせたのち、外資ファームでM&Aアドバイザー、戦略コンサル、外資メーカーで事業部長、管理本部本部長を経て、 2020年よりAttunedの事業責任者を務めている。一橋大学大学院修了。MBA in Finance。行動経済学会会員。


 

内発的動機と外的動機の関係性

初めに、Attuned シニア セールスマネージャの飯田から、Attunedと内発的動機についてご紹介します。

飯田 まずAttunedが明らかにしている内発的動機とは何かということについて、簡単な説明をさせていただきます。

ある心理学の実験があります。

子どもたちを2つのグループに分け、ひとつのグループにはおやつをあげて次も絵を描いたら報酬を与える約束をしますが、もうひとつのグループには報酬を与える約束をせずにそのまま絵を描いてもらいます。そして絵を描いた後にはおやつをたくさんあげるのですが、この直後にもう一度同じ条件で約束をし絵を描かせると、非常に面白いことが起きました。

報酬を約束したチームは、2回目はほとんど絵を描いてくれなくなったのです。

おやつをもらったチームはお腹いっぱいなので、おやつに対する関心を失ってしまったんですね。本来は絵を描くことがモチベーションになりうるはずなのに、絵を描くということが報酬を得ることの手段になってしまった。

こういう場合、外的動機が内発的動機を流出させてしまったという言い方をします。

 
 

マネージャーやリーダーとしては、報酬なしでも常に楽しく絵を描いてもらえるような、つまり仕事に対してモチベーション溢れる部下を育てたいと思うわけですが、具体的なやり方がわからないと思います。

なぜかといえば、人によってやる気のトリガーが全く違うためです。

ある人は競争に勝つこと、ある人は他人の役に立つこと、自分自身の成長などがやりがいに繋がります。人によって全然違うやりがいを持っています。

そして、外からでは本当にその人が何に対してやりがいを感じてるのかわからないことも理由として挙げられます。

Attunedはそのようなモチベーションに影響を与える要素を11個に分類しました。

 
 

それぞれのモチベーターから個人がどの程度影響を受けるのかを数値化することによって、その人のやりがいのスイッチを可視化することに成功したのです。

このようなお互いの動機を理解すること、そしてそれをコミュニケーションに反映させていくことが、第一歩になります。

今回は野口さんにもモチベーター・アセスメントを受験していただきました。野口さんの場合は、競争性、創造性、ステータス、利他性が必須のモチベーターになっていることがわかります。

それ以外のモチベーターは下位のものほど、モチベーターに対する影響度合いが弱くなっていきます。

これは能力でも性格診断でもなく、あくまでその人のモチベーションに影響を与える要素を数値化したものです。

非常に面白いアセスメントになっておりますので、ご興味のある方はぜひ無料トライアルからお試しいただければと思います。


 
 

プロフリークライマー野口啓代 さん×

EQIQ株式会社CEOケイシー・ウォール

(聞き手)文藝春秋 Number編集部 藤森 様

 
 

セカンドキャリアでも、誰もやったことがないことをやりたい


ー本日は野口さんの勝利の方程式についてお伺いします。オリンピックを終えられて、練習のない日をどのように過ごされているのでしょうか。

野口 基本的には週4日、5日お仕事をして、お休みの日にクライミングをしているので、現役時代とは真逆の生活ですね。

解放感と物足りなさを両方感じます。終わった直後は引退したこと、次の大会がないことが信じられませんでした。

大会前の刺激的な時間が恋しいなと思うこともありますが、今はセカンドキャリアでも第一人者になりたい、色々切り開いていきたいという、競技をしていたときと同じようなモチベーションで、お仕事にものぞめているように思います。

ーセカンドキャリアはどのようなことをお考えですか?

野口 やりたいことはたくさんあってまだはっきりとはお伝えできないのですが、モチベーター・レポートにもあった通り、私は「今まで誰もやったことがないことをやりたい、自分にしかできないことをやりたい、自分に価値をどんどんつけていく」というようなことがモチベーションになっているので、そういったお仕事を始められたらと思っています。

「誰と一緒にやるか」の判断材料になるモチベーター

Attunedのモチベーションのプロフィールをご覧になって、いかがでしたか?

野口 この結果だと私はどういう人だということになるのか、何を求めていることになるのか、聞いてみたいと思っていました。


ケイシー モチベーターは行動に繋がったり、適職を決めるようなものではなく、モチベーションにつながる要素のことです。一緒に活動している人のモチベーターが似ている場合は、野口さんの価値観を認めやすいと理解できます。

例えば野口さんは「ステータス」が必須のモチベーターになっているわけですが、もし上司がステータスへをモチベーションの要因としてあまり重視していない場合は、少しやりづらくなってしまうかもしれません。そういう風に「どういう仲間と一緒にやっていくか」を考えるときに使えると一番いいですね。

野口 価値観が違う相手とは組まない方がいいということですか?


ケイシー
 組まない方がいいは言い過ぎかもしれませんが、やりづらいところはあると思います。

例えば私の場合だと「合理性」が必須のモチベーションになっているので、ずっと一緒に仕事をしていると、ひたすら理由を問い続ける私を「うるさいな」と思われるかもしれません(笑)

僕のモチベーターレポートを見て、僕のモチベーションを知っている相手ならいいのですが、知らない方はとてもやりにくいと思います。

イノベーションや多様性、柔軟性が求められる現代において、大きな組織でもこういった個人に合わせたアプローチが必要とされているので、様々な企業で導入していただいています。

 
 
 

オリンピックの延期はチャンスだと思った

ー今回オリンピックは延期になりましたが、その間のモチベーションはどのように保たれていたんでしょうか?

野口 その期間のモチベーションは、一度も無くなったことがないんです。

元々引退試合にと考えていたし、競技生活がすごく好きだったので、あと一年できることを純粋に嬉しく思っていました。

準備の時間ができることも嬉しくて、モチベーションは逆に上がっていたと思っています。

ケイシー それはきっと、創造性が必須のモチベーターになっているからですね。環境の変化を、チャンスだと捉えることができたからこそ、やる気を奮い立たせて結果を出すことができたのではないかと思います。

例えばこれが「安全性」への欲求が強い人だとモチベーションを維持するのは難しかったかもしれません。

野口 そうですね。レポートを見ても、私にとって安全性はモチベーションに結びつくものではないと思います。


 
 


ケイシー 当日のプレッシャー・焦りはどのように乗り越えたんでしょうか?

野口 決勝の日はあんまり思い通りにいかなくて、それぞれの種目の順位もイメージ通りに取れなかったんです。

得意な種目で思うように行かなくて、本当に絶望していましたし、引退試合がこれで終わってしまうのかなと思っていました。

でもそういう風に一番追い込まれた時って、自分がこれまでどんな気持ちでやってきたか、どういう気持ちで大会に臨んできたかっていう一番根本の感情みたいなのが出るなと思っているのですが、当日もまさにそうでした。

元々クライミングに対して負けず嫌いで、絶対あきらめないっていう気持ちで窮地に追い込まれて逆転するパターンが多かったのですが、当日も今までの自分の大会の勝ち方とかそのままに「諦めない登り」ができて、6位から3位に順位を上げて入賞することができました。

本当に自分らしい展開だったなとは思います。

 
 


ー野口さんにとって勝つことの意味とはどのようなものですか?

野口 やっぱりスポーツなので、結果を残さないと意味がないと思っていましたし、いい登りができなくても優勝できればいいと思っていました。

数字にこだわり続けた競技人生だったと思います。


苦手な種目は、魅力を知ることから始めた

ー最高のパフォーマンスを出すために、一番大切なことは何でしょうか。

野口 体の調整はもちろんなのですが、気持ちを維持することが一番大切だと思います。

どんなに準備をしても、本番では本当に一瞬で結果が決まってしまいます。次の自分の1トライで優勝できるかどうかが決まるんだなっていう時間がすごく好きで、気持ちを保つことがすごく大事だと思っていました。

ケイシー 苦手なことはどう乗り越えたんでしょうか?

野口 三種類ある中で、私はスピードが苦手で嫌いだったんですよね。でもそれがオリンピックの最初の種目だったので、いいスタートを切るためにに得意になりたかった。だからスピードを頑張ってらっしゃる方にコーチを依頼して、好きになるところから始めました。

その方は、スピードに対して私が見えていない魅力をたくさん知っていると思っていたので、まずはその魅力を知ってみようと思っていましたね。

ケイシー 素晴らしい。今回のオリンピックの大会でもメンタルヘルスはすごく重要だったと思うのですが、メンタルヘルスとはどのように付き合ってきたんでしょうか。

野口 私はプレッシャーをポジティブに捉えているんだと思います。

成績が出なかったり、先が不安になる時は、ここで頑張れるかどうかを試されているんだ、と考えるようにしていました。

 
 

ー視聴者の方から質問を頂いたので、お答えいただけたらと思います。「最高のパフォーマンスについて。私は教師として異分野から得られる気付きを大切にしているのですが、野口さんも異分野からの学びを取り入れられたりするのでしょうか。」

野口 正直現役の時は自分のことに精いっぱいで、そこまで知識や行動を広げることができていませんでしたが、引退してたくさんのビジネス関係者や、他の競技で活躍されている方にお会いして初めて、こんなにヒントがあったんだということに気づきました。

やってることは違っても、パターンや価値感は皆さん同じようなところに行きつくんです。

もっとそういうことを、子どものうちから学べる環境であったり指導者がいたら、自分も少し違っていたのかなと思います。

ー本日はありがとうございました。ますますのご活躍をお祈りしております!(了)

今回レポートしましたプロフリークライマー野口さんとの対談の様子は、文藝春秋Number Webにおいても紹介されています!こちらからぜひお読みください!