エイミーエドモンドソンが明かす、心理的安全性と内発的動機の相互関係

エイミー・エドモンドソン

今回は、心理的安全性の概念の提唱者 エイミー・エドモンドソン氏(以下敬称略)にインタビューを行いました!インタビューをしたのは、Attuned ライター フェローシップ参加者タニア・ラベサンドラタナです。

エイミー・エドモンドソンが博士課程の研究者だった頃、病院でのチームワークの良し悪しが、ヒューマンエラー率に影響を及ぼすのかについて研究していました。しかしその結果は予想に反するものでした。
より優れたチームワークを持つチームの方が、ヒューマンエラー率は高かったのです。その理由は、優れたチームほどオープンに情報を共有するため、エラーを報告する回数も多いためでした。

「ヒューマンエラーという言葉は、ネガティブな印象をもたらします」と彼女は言います。「しかし健全なチームは、物事がうまくいかないことがあることを認識している。結果として、ヒューマンエラー率が高くなるのです」。
エイミー・エドモンドソンは後にこの現象を「チームの心理的安全性」と呼び、この概念は世界中で効果的なチームを作るために大きな影響力を持つようになったのです。

心理的安全性の概念の提唱者として知られる彼女はハーバード・ビジネススクールの教授として、心理的安全性の世界的権威となっており、「恐れのない組織 -「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」などを執筆しています。

今回のインタビューでは、心理的安全性内発的動機づけの相互作用、そして誰もが安心してリスクを取れるチームを作る方法について、貴重な洞察を語っています。

※このインタビューは、簡潔で分かりやすくするために編集されています。



心理的安全性とは「素直な態度は歓迎される」という認識である

タニア 心理的安全性という言葉を知らない人に、心理的安全性をどのように説明しますか?

エイミー 私は心理的安全性を「職場において素直な態度は歓迎される」という認識だと定義しています。具体的には、疑問や懸念、間違い、反対意見などを話すことで、対人関係におけるリスクを負うことができる環境が大切だと思います。

タニア そのリスクはどのように定義されるのでしょうか。

エイミー 対人関係におけるリスクのある行動とは、状況によって他の人にどう思われるかを気にして我慢したりするようなことでしょう。「上司に助けを求めたら無能だと思われるのではないか」あるいは、「この質問をしたら無知だと思われるのではないか」というようなものです。もしこのような考えが頭をよぎったら、残念ながらあなたは心理的安全性が確保された環境にいるとは言えません。

タニア ある環境において心理的安全性が確保されている兆候、あるいはその反対の兆候はあるのでしょうか?例えば私が新しい職場に応募する場合、何か気をつけたほうがいいことはありますか?

エイミー アンケート調査をしない場合(大抵の場合アンケート調査は行いませんが)私は次の項目が、健全に混在しているかに注目します。
それは賛成と反対、発言と質問、「上手く行っていること」と「助けを求めること」の健全なバランスです。
上司や権限者の顔色を常に伺うような礼儀正しさではなく、従業員がお互い積極的に関わり合っているような、活気のある雰囲気が必要なのです。

タニア 発言力は、個人としての自信や勇気というよりむしろチームとしての特徴だと仰いましたが、誰もが同じようにリスクを感じるわけではないと思います。もし、発言に前向きな人がたくさんいるチームなら、その中にリスクはないということでしょうか。

エイミー もちろん個人差はあります。どんな場面でも他の人よりも積極的に発言する人もいます。それと同時に、どのようなグループにも、共有された期待の集合が合理的な速さで形作られるという、一種の創発的な性質があるのです。つまりチームの特徴に個人が引っ張られるような場合のことです。

同じ組織内のグループ間で心理的安全性を測定したところ、個人差よりもグループレベルの差の方が強いことがわかりました。だからといって、多くの集団に「尖った人」がいないわけではありませんし、「尖った人」はこの辺の事情にはほとんど無頓着なようです。
また、「勇気」「心理的安全性」は、表裏一体であると考えることができます。心理的に安全な環境にいても、言いにくかったり、物議を醸したり、恥ずかしかったりすることがあるかもしれません。勇気を振り絞って、理解されるように、そして自分が作ろうとしているものに変化を与えられるように、適切な方法で言わなければならないことに気づくでしょう。

タニア では、まだリスクはあるのでしょうか?

エイミー リスクはもちろん少しはありますが、それほどでもありません。「ここは全員が貢献することを期待されているようだ」と感じるだけでしょう。

極端な例ですが、執拗に全員の発言時間を奪っている人がいるとします。その場合、心理的安全性が重要な役割を果たすでしょう。
多くの場合、発言時間を奪っている本人は、他の人からあまり役に立っていないと思われていることに気づいていません。そこでチーム内のメンバーからその人に対して、安心して為になるフィードバックを提供できる、そんな環境が大切になるのです。

心理的安全性と内発的動機の相互関係とは?

タニア 心理的安全性と内発的動機づけには、多くの関連性があるように思われます。この2つを組み合わせることで、組織の人々が潜在能力を発揮できるようになるのではないかと思うのですがいかがでしょうか?

エイミー 心理的安全性と内発的動機は相互に関連し合っていると思います。下の図のように、縦軸を「心理的安全性」、横軸を「内発的動機」として、二つの関係性を表すことができます。

 
 

ここで、心理的安全性も内発的動機づけもない環境を想像してみてください。そこでは無気力になり、対人関係上のリスクを冒すことはもちろん、自分がやるべきことを一生懸命やろうとも思わなくなるでしょう。心理的安全性が内発的動機づけと結びつけば、対人リスクを負うだけでなく、自分自身とチームメンバーをより良くするために努力し続けることができるようになるのです。これはラーニングゾーンと呼ばれることもありますが、ハイパフォーマンスゾーンでもあり、対人関係のリスクを取れるだけでなく、進んでリスクを取ることができる場所でもあります。


タニア つまり、心理的安全性を、内発的動機づけが花開くための前提条件と捉えているのでしょうか?

エイミー 私は、この2つを対等なパートナーだと考えています。良い職場環境を確保するためには、両方が存在する必要があります。困難な問題を解決しようとする場合、部下や同僚に自分らしさを発揮することを恐れさせない環境づくりが必要です。しかし、このような困難なことを成し遂げるにはモチベーションも大切なので、内発的動機づけは欠かせないのです。


チームのリーダーでない人が心理的安全性を確保するためにできることとは?


タニア 著書の『恐れのない組織 -「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』では、チームリーダーが心理的安全性を創造、回復するために採用できる実践方法を挙げています。それは次のようなものです。

1)土台を作る:組織の目標と認識を共有する

2)謙虚な姿勢とプロセスで参加を呼びかける

3)生産的に対応する

このようなものを挙げていますが、自分がリーダー的な立場でない場合、心理的安全性を確保するにはどうしたらいいのでしょうか。特に、上司がこの問題の根源である場合、チームメンバーとして何ができるでしょうか?

エイミー この答えは好ましくないかもしれませんが、私は「全く同じことだ!」と言うつもりです。実は、どの実践方法も、あなたが上司になる必要はないのです。もちろん、上司であれば、この3つの方法は心理的安全性をより強力なものにできるでしょう。例えば上司から、「これはやったことがないので、あなたの助けが必要なんです。」これは参加を積極的に求めており、とてもパワフルな言葉です。もし、あなたがチームのメンバーの一員だったとしても、「こんなことやったことある人いますか?」や「これは新しい領域のようだから、いろんなことをやってみたいですね 」のような発言はとても役に立ちます。あなたは事実を述べるだけで、他の人が素晴らしいアイデアを提供する機会を与えることになるのです。すなわち、あなたはリーダーになるのではなく、リーダーシップを発揮しているのです。


心理的安全性を確保していくためには?


タニア 心理的安全性への改善の施策を行った場合、どれくらいの期間で事態が変化すると予想できますか?1ヶ月、6ヶ月...という短期的な話でしょうか?

エイミー これに関しては本当に答えがわからないんです。INSEADとミュンヘン大学で行われたある素晴らしい研究があります。片方の上司は直属の部下と1on1のミーティングを行い、現在のタスクの優先順位や重要でないものは省くことができるかをただひたすら話し合います。仕事に関して指導し、しっかり話を聞くたった30分ほどの会話です。その結果、1ヵ月後、もう片方の何もしなかった上司と比べて、部下の心理的安全性が統計的に向上することがわかりました。これが意味するのは定期的な1on1を取り入れるだけで人々は仕事について、率直な会話をすることが可能になるのです。


タニア つまり、心理的安全性のために大きな変化は必要ないということでしょうか?

エイミー もちろん変化は必要ですが、小さなことから始めても効果は見込めるということでしょう。ある会社では、1on1ミーティングや少人数のチームでのミーティングの際に2つの質問をする習慣をつけました。一つ目は「あなたは何について最も期待していますか?」二つ目は「あなたは何について一番心配していますか?」この順番で二つ質問をすることで部下の本音を引き出せるのです。最初の質問は比較的普通で、社交的なものであることに注意してください。「この新しいプロジェクトにすごく期待しているんだ」とか、「お客さんのことなんだ」とか。このアイスブレイクの後に、「仕事上、何が不安であるか」を聞くことで本音を引き出し、心理的安全性を確保することができるのです。

心理的安全性の目的は、単に心理的安全を確保することではなく、より良い仕事をすることにつなげることです。それは学び、成長し、生産性を向上させるためです。ですから、人々が継続的に自分自身で規律を身につけられるようにすることが、私が設計する改善の施策の本質なのです。


タニア 企業やチームが「心理的安全性」の問題に気づくには、何が必要ですか?心理的安全性が非常に低い場合、そもそも変化することにあまり興味がないのではないかと思います。

エイミー 問題は、あなたの下で働いている人たちが変わることに興味があっても、あなたが変わることに興味がないことかもしれません。確かに、上司が暴君だったり、職場環境が悪い状況に何も対処していないことも多いです。そういう状況には2種類あって、「無自覚な場合」と、「実はこうすればうまくいく」と考えている場合とがあるんです。そして、「無自覚な」状況の前者の方が、介入して変化をもたらす機会が多いのです。管理職には盲点があり、自分では気づいておらず、それを知ったら憤慨するのです。いつも最初に発言したり、すぐに反対意見を述べたりする癖のある人たちは、沈黙の効果を発揮しているのです。本当に有害なマネージャーは存在しますが、私が望むのは、彼らの将来を自由にすること。彼らが何者であるかを組織が把握し、コーチして彼らが変わるのを助けること。あるいは、彼らが組織の目的に役立っていないことを自覚して彼らを追い出すことです。


タニア 異なる文化的背景における心理的安全性についてはどうでしょうか。例えば、厳しい上下関係や会社のために個人を犠牲にする伝統がある場合、他の文化と比べて心理的安全性を達成するのが難しいのでしょうか?

エイミー パワーディスタンス(上下関係の感覚)の低い文化が、ある種の優位性を持っていることは間違いありません。アメリカでもオランダでもそうですが、「自分の意見はもちろん言うべき」という価値観が共有されていますよね。
もちろん実際にはそうでないことの方が多く、みんな我慢して自分の体裁などを気にしています。加えて「あなたは発言してはいけない、ボスを待つべきだ」という価値観を持つ文化圏もあります。そのような場所で心理的安全性を構築することがより難しいのは間違いないのですが、かといって必要性が低いわけではありませんし、実行することも可能です。


例えば、誰もやったことのないハイブリッド車を開発するためには、全員のアイデアが必要であり、うまくいかないこともたくさんあります。なぜ目標がこの新しい方法で行動することを必要としているのかを理解するために、一旦立ち止まるのです。病院や組み立てラインで完璧な品質を実現するには何か問題があると感じたら、すぐに声を上げることが必要です。心理的安全性が必要な理由を説明し、取り組み、実践するサイクルを回すことで心理的安全性を確保することは可能なのです。


タニア 心理的安全性を評価するとき、それはその瞬間だけを反映したものなのでしょうか、それともチーム内の安定した特性なのでしょうか?

エイミー 私の感覚では、心理的安全性はある種の形を成しており、何かが起こらない限り安定した状態を維持します。例えば、心理的安全性が中程度で、誰かがアイデアを出しても却下されるとします。この場合、心理的安全性は低下し、私たちが何か行動を起こすまで、低いままかもしれません。ですから、罰や勇気ある行動に対する見返りなど顕著な瞬間に対して脆弱なのです。しかしある日突然激しく不安定になるとは思いません。集団は仕事のやり方や規範、共有された期待を確立する傾向があり、それは、何らかの出来事が起きて形を変えない限り、持続します。心理的安全性はいい職場環境を維持するために、常にそのような管理体制を必要としているのです。

具体的な心理的安全性への取り組み

タニア 心理的安全性に対する改善を行う際に、最初に気をつけるべき障壁は何ですか?

エイミー 私にとって最も興味深い障壁は、混合メッセージです。上司はついうっかりこんなことを言ってしまうんです。「アイデアは革新的でなければならないが、時間通りに完成させなければならないし、完璧でなければならない」。このようなメッセージが混在し、一貫性がなければ人々は完璧な面により注意を払い、革新的な面にはあまり注意を払わなくなります。私たちは、大胆に行動するよりも安全でありたいと思う傾向があります。だから、「大胆であり、安全であれ」と言われれば、私たちは「安全であれ」の部分を聞いて、立ち止まってしまうでしょう。

タニア 確かに「大胆に」というと、少しパフォーマンスのように聞こえますね。

エイミー そうですね。「これはただのセリフで、本心ではない 」と。目標を必ず達成しなければならないというプレッシャーが、素直さや創造性、革新性を阻害しているのだと思います。例えば、「目標を達成することが出世の近道だ」という強いメッセージがあると、当然ながら人々は絶対に目標を達成できるように、低い目標を設定するでしょう。こういった暗黙のメッセージのせいで、彼らは野心的な目標を立てるリスクを取りたくない、それは危険すぎるというわけです。結果的に、実現可能な目標を設定して、それを達成できるようにし、安全であることを重視してしまうのです。

タニア 心理的安全性はチームの特性であり、組織の特性ではないとおっしゃっていますね。これはどのようなことを意味するのでしょうか?

エイミー 企業文化があり、その文化の中でもグループによって心理的安全性や対人関係の風土に違いがあります。それはとてもローカルなことなので、手に取るようにわかるのです。あなたと私の関わり方は、企業文化によって形作られていますが、このグループの中では特異で特殊なものでもあります。つまり、中間管理職の存在が非常に重要なのです。プロジェクトマネージャーやチームリーダーがどう出るかによって、この会社での心理的安全性の状況が強力に伝わってくるのです。

タニア まだお話していないことで、何か付け加えたいことはありますか?

エイミー まだ話していないことの1つは、失敗についてです。さまざまな種類の失敗を理解し、失敗と向き合い、失敗について発言するために、なぜ心理的安全性が必要なのかを理解することが、今、私が本格的に取り組んでいることなのです。また、内発的動機づけが実験にどれだけ重要か、新しいことに挑戦する意欲、失敗するかもしれないことに挑戦する意欲についてもっと話したら面白いでしょう。失敗から学ぶことで、より成功に近づくことができるのでしょうか。

タニア では、今後数ヶ月の間に、失敗に関する論文を期待してよろしいでしょうか?

エイミー ご期待ください。

このインタビューをポッドキャストで聞くには、タニアのWhy Would Anyone(英語)をご覧ください。

また、Attunedでは、1on1やワークショップを通じて、企業の心理的安全性を評価し、改善するお手伝いをしています。すでに職場で心理的安全性に課題を感じている場合でも、健康的でモチベーションの高い環境を維持したい場合でも、ぜひ私たちにこちらからご相談ください。

さらに、現在Attunedは30日間の無料トライアルも実施しています!ご希望の方はこちらをチェックしてみてください!


Tania Rabesandratana

Science Journalist & Attuned Writer Fellow 2021