マネジャーの最も大切な仕事―創造性・生産性の高い組織のマネジメントとはモチベーター解説・論考
【レビュー】
「創造性・生産性の高い組織を目指すのに必要なものは?」と質問された時、皆さんならどう答えますか?。
『マネジャーの最も大切な仕事』(テレサ・アマビール 英治出版 2017)は、ハーバード教授と心理学者が共同で生産性と創造性を上げる方法について考察した本であり、生産性や創造性が高い組織に共通することが何かを解き明かしている。
「生産性・創造性」と「モチベーション」また「モチベーションをあげる要素」を整理されているので、より構造的に学べるのではないだろうか。
部下が今の仕事にやりがいを感じ、楽しいと思いながら働くことのできる方法が詰まっている一冊だと感じる。
【著者について】
テレサ・アマビール Teresa Amabile
ハーバード・ビジネススクール教授。ベンチャー経営学を担当。同スクールの研究ディレクター。 35年以上にわたり創造性、生産性、モチベーション、職場環境について調査し、その研究成果や理論をアップル、IDEO、P&G、ノバルティスなどの企業や、政府、教育の各組織に提供している。 全米ギフテッド教育協会E. Paul Torrance Award、リーダーシップ・クォータリーBest Paper Awardほか受賞歴多数。世界の経営思想家ランキング「Thinkers50」に3期連続で選出。TEDや世界経済フォーラムなどにも登壇。心理学博士(スタンフォード大学)。
スティーブン・クレイマー Steven Kramer
心理学者。リサーチャー。 組織内における主観的体験、成人発達論、乳幼児の知覚的・認知的発達などが専門。ハーバード・ビジネス・レビュー、アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナルほかに多数の論文を寄稿。アマビール教授とは長年にわたって共同研究を続けている。心理学博士(ヴァージニア大学)。
【要点】
人間のモチベーション・生産性・創造性に影響を与えるものは?
早速一つクイズをさせていただこう。
以下の五つの要素のうち、最も職場でのモチベーション、ひいては生産性や創造性にプラスの影響を与えるものはどれだろうか?
1)「良い仕事を評価すること」
2)「インセンティブ」
3)「仕事の進捗のサポート」
4)「明確な目標」
5)「対人関係のサポート」
〜〜
正解は3)「仕事の進捗のサポート」である。
本書では、上記のような質問を約670人のマネジャーに対して実施している。
正解したのは35人と全体の5%程度しかいなかった。
以下ではモチベーションや創造性、生産性になぜ「仕事の進捗のサポート」が必要なのかを解説する。
生産性と創造性を向上させるのは仕事に対する「プラスの感情と認識」
創造的な仕事の割合が増え続ける私たちの職場環境において、生産性と創造性をどのように引き上げればいいのだろうか、と言う問いはいつでもあるものだろう。
これに対する著者の答えは「インナーワークライフを豊かにすること」である。
インナーワークライフとは、『個人職務体験』と定義されている。すなわち、仕事そのものから得られる体験や経験であり、これが個人の感情やモチベーション、仕事への認識に影響を与えると言う。
とても平たく解釈すると「仕事が楽しい!」と思えている状態が、インナーワークライフが豊かな状態であり、「仕事が面白くない、、」と思っている状態がインナーワークライフが乏しい状態である。
インナーワークライフは3つの要素で構成されている。
1)感情
良い気分だとか嫌な気分といった漠然とした気持ち全般を指す。
2)認識
認識は、今起きていることに対する瞬間的な印象から、しっかり考察したことまで指す。その日の職場での出来事に対する単純な観察を意味することもあれば、組織や、社員や、仕事自体へのそれを意味することもある。
3)モチベーション
モチベーションとは、仕事をするかどうかの選択、またそれにどれだけの熱意と努力を費やそうとするか、そしてその努力を継続しようとする意欲を指す。
これには報酬や何かを得ようとする「外発的動機付け」、仕事そのものを通して得られる「内発的動機付け」、他人を助けたいと言う意欲からくる「利他的動機付け」の3つに分けられる。
本研究では創造性や生産性に最も関わりのある「内発的動機付け」に焦点を絞って調査している。
これら3つは以下のような図のように互いに影響している
そして、この感情・認識・モチベーションから構成されるインナーワークライフが「創造性」、「生産性」という個人のパフォーマンスに影響を与えると言われている。
つまり、感情・認識・モチベーションがプラスである、インナーワークライフが豊な状態、すなわち「仕事が楽しい!と思えている状態」が創造性と生産性を向上させると言うのだ。
仕事に対する「プラスの感情と認識」を生み出すのは、<やりがいのある仕事が進捗していること>である。
生産性と創造性を高める組織は、仕事に対する「プラスの感情と認識」を生み出すことだと述べている。それは個人が「仕事が楽しい!」と思えている状態と言うことだが、どのようにしてそれを成していけばいいのだろうか。
著者は、それを左右するのは、日々の「やりがいのある仕事が進捗している」と感じる出来事という。
ではそもそも、やりがいのある仕事の定義とは何だろうか?
世界中の情報の整理、弱者を助けること、途上国支援、ガン治療の支援など、社会貢献などである必要はない。
自分のチームや、自分自身、自分の家族などにとって価値のあるものだと自分が認識できる仕事だと定義している。
では次に、「やりがいのある仕事が進捗している状態」を達成するためには、3つの出来事の要素があると著者は言う。
1)仕事の進捗
取り組んでいるプロジェクトが前進するなどを指す。
具体的には、以下の4つが述べられている。
小さな勝利
ブレイクスルー
前進
目標の達成
2)仕事をサポートしてくれる出来事(触媒ファクター)
仕事を直接支援する出来事を指す。
具体的な要素としては以下の7つが挙げられる。
明確な目標の設定
自主性の尊重
リソースの提供
十分な時間の提供
仕事への手助け
問題と成功からの学習
活発なアイデア交換
3)心を奮い立たせるような、対人関係の出来事(栄養ファクター)
チームのために頑張りたいと思える人間関係上の出来事を指す。
要素としては以下の4つが代表として挙げられる。
尊重
励まし
感情的サポート
友好関係
なぜそう言うことができるのか(本書の実験内容)
本書では著者が、スタートアップから一流企業まで、26のプロジェクトチーム、合計238人に対しアンケートを含む1万2千の日誌調査を数ヶ月間行った。具体的には、当日のインナーワークライフの構成要素(認識、感情、モチベーション)に関して自己採点をするものだった。
図4-1では「最良の一日で何が起きていたか」、図4-2では逆に「最悪の1日で何が起きていたか」について結果をまとめたデータである。どちらも仕事の「進捗」が一番影響の大きい要素であることであることが示している。
そして同時に、日々の小さな出来事だとしても、「やりがいのある仕事が進捗すること」が生産性と創造性を改善・悪化させる要因であるとも判明した。
結論
組織の創造性と生産性を上げるためには「インナーワークライフ(仕事を通して得られるプラスの感情・認識・モチベーション)」を上げることが重要。そのためには「やりがいのある仕事が進捗するようにすること」が重要である。
ただ、『やりがいのある仕事』は人それぞれ違うのでは?また、新しく着任した人のやりがいのある仕事と言うのも言語化、共有が難しいところではないだろうか。
「自分の立てた目標に向かって自分の限界を越えながら、目標に突き進んでいる」ことが仕事のやりがいになる方もいれば、「新しいものを創り出している感覚が喜びだ」「仕事のやりがいは、自分自身の購入したいものや、家族のために目標とする報酬をえることだ」「やっている仕事が自分の将来のため、スキルのためになっている。その必要な経験を得るために仕事ができているからやりがいがある」とやりがいは人それぞれ異なっているだろう。
相互にそれを理解することが重要なので、一度部下の方のとやりがいのある仕事の定義を一緒に書き出してみてはいかがだろうか。
*1 テレサ・アマビール,スティーブン・クレイマー,中竹竜二. マネジャーの最も大切な仕事95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力 (Japanese Edition) p.65
*2 テレサ・アマビール,スティーブン・クレイマー,中竹竜二. マネジャーの最も大切な仕事95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力 (Japanese Edition) p.135
*3 テレサ・アマビール,スティーブン・クレイマー,中竹竜二. マネジャーの最も大切な仕事95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力 (Japanese Edition) p.133
*4 テレサ・アマビール,スティーブン・クレイマー,中竹竜二. マネジャーの最も大切な仕事95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力 (Japanese Edition)p.135
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