ダニエル・ピンクが語る、後悔と内発的動機づけの重要性とは?

モチベーションや内発的動機づけに興味がある人であれば、ダニエル・ピンク氏(以下、敬称略)のことを知っている人も多いのではないでしょうか。

ダニエル・ピンク

ダニエル・ピンクの著書7冊のうち5冊はニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーであり、著書に『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(講談社)や『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代―富を約束する「6つの感性」の磨き方』(三笠書房 )2022年には『The Power of Regret: How Looking Backward Moves Us Forward』(未邦訳)などがあります。ダニエル・ピンクは、興味深いアイデアと学術研究を、親しみやすく考えさせる特別なコツをもっています。

アル・ゴア副大統領の首席スピーチライターを務めたダニエル・ピンクは、TED.comとYouTubeで約4000万回再生されたTED Talksのひとつ「やる気に関する驚きの科学」を手がけた人物でもあります。

ダニエル・ピンク氏の著書5冊がニューヨークタイムズでのベストセラーとなった。左から『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出す』(講談社)、『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代―富を約束する「6つの感性」の磨き方』(三笠書房 )、『The Power of Regret: How Looking Backward Moves Us Forward』(未邦訳)である。

科学ジャーナリストでAttunedライターフェローシップを受賞したタニア・ラベサンドラタナとのインタビューで、ダニエルピンクは、内発的動機づけがどの分野でも高いパフォーマンスを得るために不可欠であり、一部の組織がいまだに内発的動機づけを正確に理解できていない理由や後悔が驚くほど強力な動機づけになり得るかを語っています。

内発的動機づけが行動の原動力となる

タニア: まず始めに、なぜ内発的動機づけは組織を動かす上でそれほど強力な力となるのでしょうか?

ダニエル・ピンク: 内発的動機づけがこれほど強力なのは、それが人間としての基本的な部分だからだと思います。そして、内発的動機は軽視されがちな部分でもあります。

私たちの行動の原動力は、生物学的にそうせざるを得ないからでもなく、報酬を得て、罰を逃れたいからでもなく、それをするのが好きで楽しくて、意味があるからです。内発的動機づけは私たちに喜びや楽しみそして、意義をもたらしてくれます。これは目的意識を持つことに近づくことができるのです。

私の不満は、あまりにも多くの組織や学校で、人間を報酬の欲求によって行動する生物学的な生き物であるという二元的な見方しかしていないことです。そして、内発的な動機づけの原動力を軽視してきたのです。しかも、内発的動機づけは、あらゆる分野で高いパフォーマンスを発揮するために、どんな原動力よりも重要であると考えます。

タニア:では、内発的動機づけは具体的にパフォーマンスにどのような影響を与えるのでしょうか。


ダニエル・ピンク:それは、目標によって異なります。例えば、「私は、大手銀行の窓口係になって、お客さまにサービスを提供したい」という内発的動機を抱いているかもしれません。そこで、もし上司が「じゃあ、タダでそれをやってくれ」と言ったら、私は「そんなことはしない」と言うでしょう。なぜなら、それは不公平だからです。つまり、内発的動機づけには複雑さがあるのです。皆さんが思っているよりも内発的動機づけは機械的ではなく、動機づけの生態系のようなものです。そして、これらすべての動機が生態系の中で連動しているのです。繰り返しますが、私が長年不満に思っているのは、私たちがこの第3の原動力を軽視し、十分に真剣に受け止めてこなかったということです。

しかし、実際には人間の条件には不可欠なものであり、あらゆる分野で高いパフォーマンスを発揮するために内発的動機づけは強力な要素なのです。単純でアルゴリズム的で、短期的な仕事をする領域はどんどん縮小し、より複雑で創造的、長期的な仕事をする領域はますます広がっています。19世紀や20世紀の仕事にもある程度効果的だった一連の外発的動機づけがありましたが、21世紀の仕事にはもっと良い方法を考えなければならないのです。その鍵が内発的動機なのです。

『内発的動機づけは、あらゆる分野で高いパフォーマンスを発揮するための最も重要な原動力である』

- ダニエル・ピンク

ダニエル・ピンクが明かすモチベーションを保つ上で報酬よりも大切な3つの要素

タニア:2010年に『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出す』が出版されました。この12年間で、内発的動機づけが軽視されている傾向は薄れつつあるのでしょうか?

ダニエル・ピンク:少しづつですが内発的動機づけが認知されてきていると思います。モチベーションの本質的なポイントは、組織や学校において私たちがかなり依存している動機づけがあるということです。「もしこれをすれば、あれがもらえる」というものを私はIf Then式の報酬と呼んでいます。60年にわたる研究が教えてくれるのは、If Then式の報酬は、時間軸の短い単純作業に効果的だということです。例えば、物を封筒に詰める作業をさせたい際に封筒1枚ごとに報酬を支払い、100枚ごとにボーナスを与えれば、より多くの封筒を詰めてもらえるでしょう?それについては疑問の余地はありません。しかし、If Then式の報酬は判断力、識別力、創造力を必要とする複雑なタスクや、長い時間軸を持つタスクにはあまり効果的ではありません。

If Then式の報酬の問題は報酬の質やお金ではありません。それはコントロールの一種であり、付随的な問題なのです。特に学校や職場で私たちが求めているのは、コンプライアンスでも反抗でもなく、エンゲージメントなのです。

タニア:『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出す』では、内発的動機づけを開花させるために「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」の3つの要素を挙げられていました。これらを職場でどのように手に入れ、活かしていくのか教えていただけますか?

ダニエル・ピンク:まずは、公平な報酬を支払うことが大切です。繰り返しになりますが、この研究は「お金は重要ではない」と言っているわけではありません。お金はもちろん重要です。しかし、「お金があれば必ず業績が上がる」というような人々が考えがちな単純で簡単なものではありません。お金はある意味、敷居の高い動機づけなのです。動機づけとしてのお金の最善の使い方は、お金の問題を考える必要がないくらい十分な報酬を支払うことだという意見があります。もう一度、封筒詰めの例に戻ってみましょう。たくさんの封筒を詰めるような単純な作業をさせる場合はお金のような報酬をモチベーションにしたほうが良いでしょう。しかし、もし誰かが新しい治療法を思いついたり、学校を組織する新しい方法を思いついたり、他の人が知らないような製品やサービスを思いついたりしたいのならお金ではなく、仕事自体をモチベーションとすることが大切です。

そのような創造性などが求められる環境では3つの核となる重要な動機づけが生まれます。自律性とは、個人に裁量権を与えることで何をするか、どうするか、いつやるか、誰とやるかについて、個人が何らかの発言権を持つようにすることです。

マスタリー(熟達)とは、重要なことをより良くしたい、改善したい、学びたい、成長したい、進歩したいという欲求です。ハーバード大学のテレサ・アマビールは、仕事における日々の最大のモチベーションは、有意義な仕事で進歩することであるという、実に素晴らしい研究結果を発表しています。つまり、これが「マスタリー(熟達)」なのです。

目的は1つではなく、2つの異なる種類があると私は考えています。1つ目は、私が「capital P」と呼んでいる大きな目的です。これは、私が世界にとって重要なことをしているか、気候の危機に対処しているだろうか、飢えている人たちを養っているだろうかというような目的です。

2つ目の目的は「small P」と私は呼んでいるのですが、これも同様に重要です。私は組織やチームに貢献できているか、チームメイトがプロジェクトを成功させるのを助けているか、顧客の問題解決に貢献できているか、このような目的です。

つまり、「capital P」目的とは違いを生み出すことであり、「small P」目的とは貢献することなのです。つまり、「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」を人々に与える仕事があれば、人々は成功し、より良い業績を上げることができるのです


新著『The Power of Regret』について語るダニエル・ピンク(Nudgestock 2022にて) 


後悔をモチベーションとし、今後の人生へと活かす

タニア:新著『The Power of Regret: How Looking Backward Moves Us Forward』についてお話したいと思います。あなたは後悔の悪いイメージを覆し、後悔をより良い人生へのガイドとして見るように私たちを後押ししています。では、後悔はどのようにモチベーションの源泉となるのでしょうか。

ダニエル・ピンク:まず、その背景から説明しましょう。後悔について、2つの重要なことがあります。1つ目は、後悔は私たちの認知機能に不可欠なものであり、誰もが後悔しているということです。これは本当に重要なことで、後悔は人間が持つ最も一般的な感情の1つなのです。後悔しない人は、何らかの障害を持つ人か、脳が発達していない小さな子供だけです。2つ目は、「なぜ悪いと感じるものが、これほどまでに広く行き渡っているのでしょうか?」その答えは、「役に立つから」です。後悔は私たちが何をモチベーションにしているかを明らかにし、どうすればより良くなるかを教えてくれるからです。

私たちは、後悔に対して新しい見方をする必要があります。このポジティブすぎる環境では、多くの人が後悔を無視することを勧めていますが、後悔に浸るのではなく、実際に後悔と向き合い、情報として、シグナルとして、データとして利用するのです。

では、モチベーションについて、この研究は何を教えてくれるのでしょうか。人が何に一番後悔しているかを理解すれば、何を一番大切なモチベーションとしているかがわかると思うのです。ご存知のように、私は世界109カ国の人々から21,000以上の後悔を集めました。この下の表にある4つの後悔は、何度も何度も繰り返し出てきます。この4つの後悔は、人々が人生に求めるものの逆像として機能しているのです。

タニア:あなたが後悔していることとそれをどのようにプラスの原動力にしているのかという実際の体験はありますか?

ダニエル・ピンク:私は若い頃の親切さが欠けていたことについて後悔しています。いじめではなく、不親切のようなものです。私は、人々がうまく扱われていない、排除されている、公平に扱われていない状況に多く遭遇しました。しかし、私はそれを見ていながら何もできないのが悔しかったです。

じゃあ、どうすればいいのでしょうか?「後悔はない!私は決して後ろを振り向かない。いつも前向きだ」というのはあり得ないし、妄想でしょう。「ああ、なんてこった、私は不親切だった。私はひどい人間だ、いつもこうだ、私は無価値だ!」と。これもダメですよね。そこで、「ちょっと待てよ、10年、20年、30年と感じ続けてきたこの後悔は、私に何かを告げている、ドアをノックしているんだ」と言いたい。ドアをノックしているのです。「あなたがすべきことはこれだ」と言っているのです。今、誰かが排除されているのを見たら、何か言って助けなければいけないし、その人を連れてきて、実際に歩み寄らなければならないのです。

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このインタビューは、長さとわかりやすさのために編集されています。全文を読む、またはポッドキャストで聴くには、Why Would Anyone on Substack(英語)をご覧ください。



Tania Rabesandratana

Science Journalist & Attuned Writer Fellow 2021