「DEI」の後退と公平な職場作り
このレポートは5月22日に行われたオンラインセミナーの内容を日本語でまとめたものです。本ウェビナーでは、世界中の組織、特に米国におけるDEI(多様性、公平性、包括性)プログラムが直面している課題と抵抗について、様々な分野の専門家が議論を交わしました。なぜ1960年代からあるこの概念が再び注目されるようになっているのでしょうか。
パネリストの紹介
ジャッキー・スティール博士:Enjoi Japan のCEOであり、カナダと日本を拠点に、DEIコンサルティングを行っている。
クリステン・パリーシ氏:障がい者の視点からDEIに関心を持ち現在はMorning Brew のDEI専門記者として活躍している。
シェーン・ロイド氏:Baker Tilly の最高多様性責任者であり、従業員の公正な機会と包括的な組織文化の推進に努めている。
カティナ・ソーヤー氏:アリゾナ大学准教授であり、DEIと職場環境の研究を行っている。ジェンダー・スタディーズと組織心理学の博士号を取得。
DEI とその後退
「DEI」という言葉はご存知でしょうか。Diversity, Equity, Inclusion の略です。日本では、ブラックライブズマター運動をきっかけに、多国籍企業がグローバルなDEI戦略を現地に浸透させる必要性を認識したことで、DEIへの取り組みが加速したことが紹介されました。このように世界中でDEIを推進するような企業が増加しているように思いますが、実際には違います。
DEIのプログラムが女性活躍の推進や有色人種に焦点をおいていることが却って差別的という理由でDEIプログラムを除外する動きがあります。マイノリティーにポジションが与えられるのは実力によるものではなく、そのアイデンティティーによるものというイデオロギーが存在するとパリーシ氏は話していました。
さらに、DEIをただ廃止するのではなく、資金を注ぎ込んでも成果が出ない原因を突き止めることが大事だと言います。
公平な職場作りのためにできること
正式なDEIプログラムがない場合でも、従業員が公平かつ包括的に行動するよう動機づける環境を作るための雇用主の戦略として、リーダーシップの役割の重要性が指摘されました。効果的なDEI戦略を実行するには、経営陣がデータを真摯に受け止め、従業員の声に耳を傾け、共感を示すことが不可欠であるとの見解が示されました。
また、DEIについて議論する際の従業員の防衛的な態度や抵抗への対処法として、オープンで敬意を払った対話を促進することの重要性が議論されました。参加者からは、HR部門の役割についての質問も寄せられ、DEI戦略をサポートするためにHR機能を強化することの重要性が指摘されました。
さらに、職場がDEIの取り組みを誤って扱っている兆候として、従業員の多様性の欠如や、公表されている方針と実際の慣行の不一致などが挙げられました。これらの問題を修正するための推奨事項として、包括的な採用方針の導入や、柔軟な勤務体制の整備などが提案されました。
最後に、雇用主がDEIへのコミットメントを後退させた場合の組織への影響について議論が行われました。パネリストからは、DEIへの取り組みが一時的なものではなく、持続可能な長期的投資として位置づけられるべきであるとの意見が出されました。
まとめ
DEIの正式なプログラムがなくても企業ができる工夫を5点にまとめることができます。
DEIを企業文化に組み込む
オープンなコミュニケーションの促進
継続的な教育とトレーニング
データと分析の活用
リーダーシップのコミットメント
パネリストは、DEIイニシアチブが公平でインクルーシブな職場環境を作り出し、イノベーションとビジネスの成功に貢献する上で非常に重要であることを強調しました。グローバルなパネリストを向かい入れることによってDEIプログラムの現状と課題について、多角的な視点から議論を深める貴重な機会となりました。今後、各組織がDEIの重要性を認識し、実効性のある施策を継続的に実施していくことが期待されます。