【セミナーレポート】経営戦略としてのDEIとデータの活用 〜Dr. スティール 若希さんと考える
本稿は2022年3月29日に開催したウェビナー「経営戦略としてのDEIとデータの活用〜日本を熟知したカナダ出身政治学者 Dr. スティール 若希さんとDEI戦略を考える」のセミナーレポートです。なおこのウェビナーは、2022年5月25日 (水) 13:00 - 14:00に再設定されますのでご興味をお持ちの方はこちらからご参加ください。
東京大学などで教鞭を取るスティール 若希博士は、DEI(Diversity, Equity and Innovation)戦略の専門家としてチームを率い、企業のコンサルティングや研修、行政に参画しています。ダイバーシティ戦略は、グローバル企業を中心に経営戦略として普及していますが、本セミナーでは日本企業の経営者との意識の差について政治学の観点だけでなくビジネス戦略の観点からお話いただきました。
また、DEI戦略を自社に導入していく上で考慮すべき組織変革の考え方、「掛け声」で終わらせないために活用可能なデータに関する理解についてもご紹介いただきながら、日本にある企業が生き抜くために必要な考え方について示唆をいただきました。
なぜDEI戦略が必要なのか?
イノベーションが生まれる条件として、多様性と公正性が豊かな現場・環境・職場・企業理念・文化が必要だと思います。現在、グローバル企業では持続可能かつ包括的なイノベーションを求めている、あるいは求められています。それを実現するための一歩として、DEI戦略を取り入れていく必要があるのです。
多様性や公正性は、自発的に生まれるものでもありません。それは私の出身のカナダでも同じです。国や企業が、公共政策として多様性の取り組み、多様性を受け入れる取り組みを、お金や時間かけて何十年も意識的に集中して取り組むことによって、はじめて多様性のある環境は生まれています。そして革新が次々と生まれ、活発な意見交換やソリューションの提案が行われるようになるのです。
好循環を生んでDEI戦略を達成する
DEIビジネス戦略に取り組むにあたり、段階的なアクションを踏み、達成に向けて好循環を生むことが鍵となります。まず多様性や公正性によって革新を生み続ける環境を作るということを、個人個人や企業全体で目標に設定したりブランド化、意識づけをします。そして自由で働きやすい仕事環境を目指し、従業員自身が仕事環境をデザインできるというような心理的安全性が次第に確保され、自ずとパフォーマンスも向上していきます。その結果、多様性や公正性を備え、働きやすい職場であるという評判が広がり、優秀な人材が自然に集まり、離職率の低下にも貢献します。またその過程で革新的な優秀な人材が育ち、いずれ企業の中心に立つようになり、彼らがリーダーシップを取ることで、企業の持続力や利益、長期的なパフォーマンスの向上へと繋がるのです。
なるべく皆が働きやすい環境を構築するためには、どのようにすれば良いのでしょうか。それは多様な人材を積極的に受け入れることです。それは決して外国人人材を採用するというだけに限らず、国内の様々な個性を持った人材を受け入れ、彼らの個性を発揮できるような環境づくりを目指すべきなのです。個性とは具体的に、性別や国籍、身体的特徴、あるいは家庭事情や収入に対しての考え方、精神衛生など様々なものが考えられるでしょう。
連帯感や帰属感を生み出す
もし現状の日本企業の多くの組織体制や組織文化のままで、多様な人材を受け入れると、いじめが生じたり、排除されている感覚を負ってしまいかねません。リサーチ会社による調査では、個人がたったひとつの排他的な対応を受けることで、直接的にチームのパフォーマンスが25%減少してしまうことが示されています。
一方で、1万人規模の会社において、従業員全員が会社への帰属感を感じた場合、52億ドルの利益向上が見込めるとも示唆されています。一人ひとりが何かを我慢するような文化から、相互理解をして、お互いを歓迎し、活かし合っていくことで、個人の幸せのみならず、企業や社会全体のパフォーマンスや利益にも結びつくのです。
DEIビジネス戦略にAttunedを活用する
多様性は外見的に分かるものばかりではありません。従業員同士の相互理解とフラットな環境をつくるためには、Attunedで提供している11のモチベーターが非常に適切です。従業員のモチベーターを可視化することで、適正なコミュニケーションや関係性を実現し、心理的安全性を高め、チームのパフォーマンス向上につなげることができます。
今後のDEI戦略に必要なこと
多様な才能や個性があることが、決していじめやパワハラ、セクハラなどの悪い方向に向かわないようにし、それぞれが相互理解をして、調和していくことが重要なのです。そのためには、企業やチームごとの中で、一人ひとりの個性やモチベーション、心理的安全性をデータ化して測定することで、より向上に向けての着実なステップを踏めていくと考えます。
企業のホームページなどで、女性従業員や障がい者の従業員を何%雇用していますというような統計情報がよくありますが、そこに意識し続けることは真のDEI戦略とは異なります。
価値観、意識、行動、実践、組織づくりなどの外からは見えない部分を根本的に変えていくことで、はじめて本当の意味で環境を変えることができ、結果的に良い統計情報や成果に表れるのです。
Dr.スティール若希氏とケイシー・ウォールの対談
ケイシー)DEI戦略は、なぜ今取り組むべきなのか、どのように組織の中で浸透させていくかということに課題を持っている人が多くいると思います。
若希)少子高齢化が進む日本で、離職率を減少させることに取り組まない企業は、果たして今後残っているのだろうかと疑問を持っています。多額の採用コストをかけても、多くが離職するということは、とても効率も悪く、悪循環でしかないと思います。もっと合理的な投資、企業活動をするべきではないでしょうか。これから日本市場の経営者に求められることは、全体的な持続可能性のある企業組織文化の導入が大きな課題となってくると考えています。
ケイシー 若希さんは皆合理的に投資していくべきだと仰りましたが、私も合理的な考え方にモチベーションを感じるのでとても納得しています。一方で我々のように、合理的なリーダーたちはそれでも良いかもしれませんが、合理性にモチベーションを感じないリーダーや、他のモチベーターが強いリーダーたちに対しては、どのようにDEI戦略に火をつけさせれば良いと思いますか?
若希 これは年齢問わず皆が、自分が生まれてきた理由や、なぜここに存在するのかといった、自分自身に向き合う機会が増えてきたと思います。そうすると、ただ毎日長時間労働を行って家に帰るだけの人生は不十分だという考え方が広がってきました。自分らしさ、すなわち”より良い生き方” や ”自分のあり方” を求めるようにもなってきています。例えばグーグルなどのような皆が多様性を尊重し、あらゆる価値観を有した企業に勤めることで、年収というステータスではなく、そのような自由な環境を持った企業に勤めているというステータスを誇りに思う方も増えてきました。そのような別視点、別のモチベーションからでも、DEI戦略に携わっていくことも可能だと思います。
ケイシー ではもうひとつ私から質問させていただきたいと思います。部長も経営者も皆でDEI戦略に取り組んでいくことになりました。3ヶ月、5ヶ月の予算も与えられました。どうやって短期的に成果を出していくのでしょうか?
若希 基本的には3ヶ月、5ヶ月のような短期間ではなく、長期的な目標と展開を持って取り組んで行くべきです。DEI戦略は、長期的な人材の育成、開発というところにゴールがあると思いますが、1人の保護者として、”子育て” に似ていると思っています。赤ちゃんを3ヶ月育てて終わりではなく、長期的に育てていきますよね。タレント(人材)を育てていくためには、子育ての際の心の広さ、余裕が必要になります。
そこから長期的に取り組んでいくにあたって、目標に対しての説明責任を明確にしておくことです。よく日本企業で残念ながら生じることとして、30年の長期的な計画を行ったが、結局実現せず、加えてなぜか分からない、説明責任を有していないということがあります。まずは目標を設置して、それとともに誰が説明責任をとり、具体的にどのような投資をしていくのか、全てをデータ化して、測りながら明確に取り組んでいくことが重要です。最終的な成果に向けて、期待感と帰属感を持って皆で取り組んでいくことも必要です。
ケイシー では長期的なビジョンに対して、どのようにゴール設定すると良いか、どこまで詳しいゴールを設定するのが良いと考えますか?
若希 DEIビジネス戦略に関してはビジネス戦略ですから、既にビジネスで決まっている目標があるはずです。それに対して DEI戦略が支えていくという構図です。例えばセールス人材や専門的な人材を増やす、こんなサービスを開発したい、よりお客様を増やすためにはどうコミュニケーションを取るべきか、など既にあるビジネスの目標に対してDEI戦略が主流化されていくのです。 DEI戦略が端の方で単独で存在するものではなく、全てのビジネスの土台、通らざるを得ないものとなるのです。
この後も講演参加者との質疑応答を行い、DEIビジネス戦略や人材育成・開発についてディスカッションを行いました。
スティール F. 若希 博士(Ph.D)
株式会社enjoi日本、代表取締役 / スティール若希博士は日・英・仏に堪能な政治学教授、出版物の著者であり、長年日本に滞在しています。多様性、女性の地位向上の促進、多様な才能の開花、および包括的な意思決定であり、若希博士は多様かつ包括的な文化が中心である組織の共創、政策、実践においての指導者としての経験を豊富に有しています。
スティール博士のDEIに対するアプローチはエビデンスに基づくものであり、教育を通じた全体的なシステム設計と意識の変化のサポートをするため、科学的に信頼できる指標を使用しています。彼女はカナダ(オタワ大学)や日本(東京大学)といった一流大学の教授を務めました。2008年、2009年度に多様な女性の平等を提言するカナダの市民団体の代表として国連女性の地位委員会に参画しました。また国内においては2015年に国連の災害リスク軽減分野での政策提言において多様性のアドバイザーを務めました。上智大学大学院、地球環境研究科で「多様性と災害リスクガバナンス」を教えています。
ボランティア活動として、在日カナダ商工会議所の理事としてグローバルダイバーシティマネジメント委員会長を率い、一般社団法人FEW Japan(在日多国籍の女性会)の会長・代表理事、SheEO Canadaのエンジェル投資家、そして次世代の交差的多様性を推進するリーダーを育つためWomEmpowered International UTOKYOの戦略的アドバイザーを務めています。