失敗に対して、マネージャーはどう振る舞うべきか

規模の大小を問わず、すべての企業には失敗が存在します。資金が尽きる前に何が有効なのかを素早く学ぼうと奮闘するスタートアップ企業もあれば、一方では次の大きなものを見つけるために、何十億ドルもの資金をプロジェクトに投入するグローバル企業もあります。失敗への対応は、ビジネス環境や会社の歴史、社員自身などに大きく影響される企業文化によって異なります。

私は過去の職場で、失敗を絶対に避けようとする会社の経営者や、失敗しても必ずその原因を突き止める人に出会いました。一方、失敗してもそれは学びのための自然なステップであると考えているような人もいました。

当然のことながら、これら2つのタイプの経営者の下にある組織は全く違ったものになります。

失敗の知らせを耳にした時、経営者が最初に発する言葉は組織に驚くほど大きな影響を与えるのです。例えば、あるプロジェクトの失敗談を考えてみましょう。

  • 経営者A:

何だって?誰がこの失敗の責任をとったんだ?

(責任者と話して)一体どうしてこんなことになったんだ?二度とこんなことが起こらないように、今から何をするのか教えてくれないか?

  • この発言から生まれる影響:

この組織の人々はこの発言により、ハードルを上げることを避けるようになります。失敗のリスクは努力に見合わないので、ベストを尽くそうとしません。最終的には会社が潰れる可能性もあるでしょう。

  • 経営者B:

なるほどね。チームはこの失敗から何を学んだのだろう?彼らは次に何をしようとしているのかな?

  • この発言から生まれる影響:

この組織の人々はこの発言により、次のレベルに進むために何かを学びたいと思ったら、そのためのサポートを受けられることを理解します。そして何度も失敗してもあきらめず挑戦をすることで、この組織は成長し続けることができるのです。

失敗の種類

失敗が好きな人は恐らくどこにもいません。多くの時間や物事を犠牲にして進めてきたにもかかわらず目標を達成できなかったとすれば、不愉快になるのも自然なことでしょう。

数年前、私がIT企業のポートフォリオマネジャーとして働いていたとき、私のチームはある銀行の新しいモバイルアプリを構築するプロジェクトを任されました。このプロジェクトは、銀行を21世紀に導く貴重な機会だったので、私たちはとても期待していました。他のモバイルアプリ開発プロジェクトと同様に、私たちはアジャイルプロセスを設定し、チームはお客様からのフィードバックを受けながら何度も反復作業を行いました。

やっとの思いでアプリを完成させてユーザーに受け入れてもらうために銀行に引き渡したとき、一部の関係者からUIの反応が十分ではないという懸念が寄せられました。これには驚きましたが、すぐに改善のため数回のスプリントを行いました。しかしその時点で銀行から「プロジェクトの予算は使い切ってしまったので、コンプライアンス上これ以上1ドルも追加できない」と言われてしまったのです。

私たちは思わず「では、このアプリはどうすればいいのでしょうか」と尋ねました。

彼らの返答はこうでした。「コードを全部捨ててくれ、使えないから 」

上記の失敗は予防可能なものでした。「The Fearless Organization(邦題:恐れのない組織)」の著者であり、心理的安全性という言葉の発案者であるエイミー・エドモンドソンによると、これは3つある失敗のカテゴリーの1つです。

このカテゴリーとは何か?ご説明しましょう。

一つ目は回避できる失敗で、これは望ましいプロセスから逸脱して悪い結果をもたらします。上記の例では、適切なコスト管理とステークホルダー分析ができていませんでした。

二つ目は望ましくない結果をもたらす事象と行動の、ユニークで斬新な組み合わせとして現れる、複合的な失敗です。慣れ親しんだ状況に複雑性、変動性、新しい要因が加わることで発生します。2003年に発生したNASAのスペースシャトル「コロンビア」の大気圏再突入失敗はその一例です。

最後は知的な失敗です。期待していなかった結果ではあるものの、新しい領域へ進出するきっかけとなるものです。原因としては、不確実性、実験、リスクテイキングなどが考えられるます。

2つのグループの経営者に話を戻すと、「回避できる」「複合的な」失敗は避けるべきですが、「知的な」失敗には細心の注意を払う必要があります。次の大きなものを追求するパフォーマンスの高いチームは、この種の失敗をかなりの頻度で経験するでしょう。

しかし、数百万ドルのサンクコスト(埋没コスト)は数十億ドルの新規売上に比べられるものでしょうか?

また、知的な失敗に対処するためにはどうすればいいのでしょうか?

内発的動機づけが失敗に与える影響

スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授は「学習志向が達成感を高め、困難に直面したときの回復力を高める」というマインドセットに関する有名な研究を行っていますが、その中で結果にかかわらず努力した人を褒めることの重要性を指摘しています。

人は最終的なパフォーマンスが自分の能力や知性の表れだと思っていると、その結果によって自分の能力を疑われることを恐れ、リスクを取りにくくなります。

しかし自分のパフォーマンスには自分の努力やさまざまな戦略を試す能力が反映されていると考えれば、新しいことに挑戦したり、逆境や失敗に直面しても粘り強くやり遂げようという意欲が湧いてきます。

また、すべての人が同じようにやる気になるわけではありません。内発的なモチベーションは人が結果を出すために必要不可欠な要素であるため、その人の支配的な動機付けが失敗に対する反応にどのような違いをもたらすかを考える必要があります。

ここでは、人の上位のモチベーターに応じたマネージャーの対処法をご紹介します。

競争心

常に自分の限界を超えて挑戦し自分の基準を他人よりも高く設定する人に対しては、低い結果への対処に注意を払う必要があります。このような人は失敗に強いはずですが、マネージャーは彼らがそこから学び、学んだことを次に生かすことができるよう、コーチングを行ってみてください。

フィードバック

他人に認められて初めて自分の仕事やパフォーマンスが重要で成功したと思える人は、失敗をしても自分の役割について包み隠さず考え続けることができるでしょう。そのためマネージャーは小さな成功でも褒めてあげたり、積極的にサポートや励ましをすることによって、その人が力強く立ち直れるようにする必要があります。

創造性

創造的な衝動と革新的な精神を持ち、問題を様々な角度から検討する能力を持つ、本質的に「革新」に駆り立てられている人は、一人ですぐに立ち直れる可能性が高いですが、マネージャーは、失敗には3つのタイプがあり、すべての失敗が簡単に片付けられるわけではないことを明確にする必要があります。

成長

自分の知識レベルを超えた複雑な状況やタスクを含むチャレンジングな仕事に価値を見出している人(そこに成長の機会があると考えている人)にとって、失敗は学習のプロセスに影響を与えるかもしれません。マネージャーは、失敗の原因がパフォーマンスの低下なのか、プロセスの低下なのかを注意深く判断し、それに応じてその人が立ち直るまでをサポートする必要があります。

合理性

どんな状況下でも客観的で論理的であり続け、合理的な議論に基づいて意思決定を行おうとする人は、おそらく他の人よりも先に失敗が近づいていることに気づくでしょう。しかし「だから言ったじゃないか」と言っている場合ではありません。むしろ、自分の役割を振り返り、他の人に影響を与えるために何か違ったことができたのではないかと問いかけるべきであり、マネージャーはこのコミュニケーションをチーム内で促進する方法を考えなければなりません。

セキュリティ

固定されたプロセスやワークフローの形成と実行に、明確に定義され規制を伴う手順に高よって動機づけられる人々を参加させるのは、良いアイデアかもしれません。これにより、会社はより構造的なオペレーションを行い、回避できるはずだった失敗を防ぐことができるでしょう。

ステータス

ステータスによって動機づけられた社員は、失敗に対して最も敏感になる可能性が高くなります。そのためマネージャーは、失敗が組織内でどのように報告されるかに気を配り、責任のなすり合いが極力起こらないよう配慮する必要があります。

結局のところ、失敗はイノベーションの貴重な一部であり、必ずしも気分が良いものではないかもしれませんが、恐れるべきものでも、必ずしも罰せられるべきものでもありません。アメリカの偉大な実業家であるヘンリー・フォードは、次のような言葉を残しています。

"The only real mistake is the one from which we learn nothing."

(本当の失敗とは、失敗から何も学ばないことである。)


Mattias Hallberg

Head of Product

Intrinsic Motivator Report

Mattias Hallberg