チクセントミハイ氏が提唱するフロー状態と、内発的動機の関係性

 
 

フロー状態を皆さんは知っていますか?あるいは聞いたことがありますか?

フローとは、人がある特定の活動に完全に没頭している瞬間を指す言葉です。たとえばピアニストがコンサートでソナタを弾いている途中で、あるいはロッククライマーが山の頂上を目指して登るときに感じるいわゆる”クライマーズ・ハイを感じているような瞬間を指す言葉です。

ここでは、私の人生を変えたミハイ・チクセントミハイの『Flow: The Psychology of Optimal Experience(邦題:フロー体験入門―楽しみと創造の心理学)』という本からフロー状態と内発的動機の関係性をまとめ、フロー状態を職場で生み出す方法について紹介していきます。

混沌の中でも集中する方法を見つけたチクセントミハイ

1934年フルーム市(当時はイタリア王国の一部、現在はクロアチア第3の都市リエカ)に生まれたミハイ・チクセントミハイは、第二次世界大戦の混乱を目の当たりにし、幼い頃から生きる価値について考え始めたといいます。終戦直後、家族とともに政治犯として連合国に連行された彼はチェスをすることで荒涼とした外の世界から心を解放することを知りました。この体験は後に、彼の生涯の研究テーマのインスピレーションの源として挙げられることになります。

その後チクセントミハイはスイスの精神科医カール・ユングの講演を聞いて心理学の虜になり、アメリカに渡り、シカゴ大学で学士号、博士号を取得しました。数年後には同校の教員となり、人間の繁栄と幸福を研究するポジティブ心理学の発展において、重要な役割を果たしました。

チクセントミハイは、ロック・クライマー、チェス・プレー ヤー、外科医などは困難に直面しているときに、楽しみによって動機づけられた活動により、 ごく自然な流れに全人的に没頭してしていることを発見し、これを「フロー理論」としてまとめました。

チクセントミハイは、このような完全に物事に没頭している状況こそが「フロー状態」であり、人生の中で最も有意義で、満足のいく瞬間であると主張しています。

 
 

フローを期待するには、楽しさを追求すること

しかしチクセントミハイのこの本が出版されたのは30年以上前であり、現代においてフロー理論がどの程度通用するのかということには疑問が残ります。チクセントミハイのインターネットが普及する前の時代と、現在の生活とはかなり違っていますし、その中でもインターネットを通じて情報の刺激が絶え間なく流れ込むことの影響は、当時の比ではないでしょう。

私たちがこのような刺激に晒され、フロー状態になる時、そこに山登りのような楽しさはありません。それどころか、無意味で無駄だと感じることさえあるかもしれません。なぜそのように感じてしまうのでしょうか。

これらは「喜び」と「楽しさ」の区別によるものだと、チクセントミハイは本書で結論づけています。喜びは受動的なもので、外部からの刺激に対してほとんど本能的に反応するものです。例えばチーズケーキを食べ過ぎたり、Netflixで好きな番組を見たりするときに感じるようなものだと言えます。

一方「楽しい」という感情はより能動的で、高度なメンタルのコントロール(モチベーションや生産性への働きかけなど)を必要とします。自分の能力を最大限に発揮できるような課題に挑戦しているときや、今持っている能力よりもほんの少し高い能力を必要とするときに感じるものです。これはまさに「フロー状態」に近い状態と言えるのです。

この2つのどちらかを選べる時、人間は快楽の方、つまり「喜び」のフロー状態に引き寄せられる傾向があります。言ってしまえば私たちの脳は怠け者なので、難しい課題に意図的に集中することはできないのです。この考え方は、現代の多くの心理学者が脳について考えていることと一致しています。「二重処理モデル」は、私たちの認知の一部は自動的で楽なものであり、他の部分は制御され努力のいるもので、しかもそれを利用することは非常にまれであることを示唆しています。

私たちの快楽への嗜好は、短期的にはいいものであるかのように見えますが、持続可能なものではありません。一方で「楽しむこと」は長期的な幸福のためのより強固な土台となります。チクセントミハイは、この楽しむことこそがフロー状態へとつながり、読者の多くは日々の生活や文化的な教訓から、既にフロー状態をある程度知っていると言います。

しかしただ知っているだけでは十分ではありません。必要なのはフロー状態になるための日々の実践の訓練だとチクセントミハイはいいます。快楽を意識的に制限し、新たな挑戦という形で積極的に楽しさを追求することで、フローが起こることを期待することができるのです。

フローの条件:最適に挑戦するために、
自分の内発的動機を理解する

しかし残念なことに、フロー状態は非常に稀であり、それを実現するためには少なくとも3つの条件を満たす必要があります。

条件1:何を目標としてその活動をしているのかを知る。漠然とした目標では、それを十分に楽しむことはできません。

条件2:自分の行動に対する明確なフィードバックがある。自分の行動が目標に近づいているのか、遠ざかっているのかを知る必要があります。

条件3:挑戦的であること。現在持っている能力より少し高い能力を必要とする活動であること。

これらの条件を満たすことはフロー状態を実現するための必須条件ですが、それだけではありません。

適切な自己理解もまた、フロー状態を実現するための重要な条件となります。

Attunedではまず自分自身の「内発的動機」を理解することが、その道を切り開く最善の方法だと考えています。つまりただ新しいことにチャレンジすればいいというわけではなく、「一人ひとりにとって適切な」チャレンジであることが必要なのです。そうすることでよりフロー状態を近づけることができるでしょう。

職場でフロー状態を生み出すためにできること

職場でフロー状態を生み出す環境を作ることは簡単ではありませんが、フロー状態を育むために組織ができることは、実はたくさんあります。

  • マネージャーがチームに割り当てるタスクの目標をより明確にする

  • 従業員の学びを最大限に引き出すようなフィードバックを提供する

  • 社員が自分の限界に挑戦できるように、それぞれのスキルレベルに応じてより慎重に仕事を割り当てる

しかしその責任は決して経営陣だけのものではありません。これらの条件が満たされない場合、社員は上司ともっとコミュニケーションをとることができます。逆にメッセージアプリをオフにしたり、1つのタスクに集中するためにまとまった時間を確保するなど、気が散らないようにする工夫がフロー状態へとつながります。

フローについてもっと知りたければ、チクセントミハイの大著を手に取ってみることを、強くお勧めします。また、「内発的動機」という概念が初めてであれば、このテーマに関する私たちの無料ホワイトペーパーのダウンロードも、ぜひご検討ください。

どちらの方法もあなたに真の幸福をもたらす保証はありませんが、正しい道を歩むために何をすべきかを考える助けにはなることでしょう。


Brandon Routman

Senior Behavioural Scientist

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