【「個の時代」のHR経営 第3回】効果的なオンボーディングとは?〜新入社員をいち早く戦力化するカギ〜

皆さま、こんにちは。このシリーズでは、定期的に戦略人事に求められる視点をお届けいたします。担当は、Attuned日本事業部長の飯田蔵土です。現職に至るまで、過去にアクセンチュアなどのコンサルティングファームでの経験を積みながら、金融工学や人的資本経営の分野で幅広い知識を培ってまいりました。

定期的に訪れる、組織に新入社員や新メンバーが加わる時期。実は、新しいメンバーが最初に経験する「オンボーディング(入社/新配属)」は、その後の仕事へのやる気や生産性に大きな影響を与えると言われています。
オンボーディングとはジョブトレーニング、部門やチームの紹介、業務プロセスやツールの学習が含まれます。
初日や初週に企業のミッションや価値観、ルールや規則、施設の説明が行われる入社オリエンテーションと異なり、オンボーディングは新入社員が仕事内容や企業文化などについて理解を深め、早期に生産性を発揮できるようにサポートするプロセスです。第3回は、効果的なオンボーディング体験を創出するためのヒントをご紹介します。

内発的動機づけについて

内発的動機づけとは、簡単に言えば「やりがいの要因、スイッチ」です。しかし内発的動機づけは人によって異なるため、「これは全て(または多くの人)の人に当てはまる内発的動機づけだ」と一概に言えるものはありません。

具体例を説明しましょう。多くの場面で「成長の機会」が仕事の魅力として強調されることがあります。これは「多くの人にとって、成長の機会は内発的動機づけに有効だ」と考えられているからでしょう。しかし、内発的動機づけを可視化するアセスメントを提供する弊社の統計情報によると、「成長」を最も重要な内発的動機づけとする人はたったの9.31%しかいないのです。

つまり、90%以上の社員にとっては、「成長」以外の要素が内発的動機づけの最上位にあるということです。この事実は、「成長の機会」が必ずしもすべての社員の「やる気」を引き出す最適な方法ではないことを示唆しています。

だからと言って、「成長」を最上位の内発的動機づけに持たない社員たちが「成長意欲がない」訳でも、「自己成長する能力がない」訳でもありません。

「成長」や「成長するための努力」という「行動」のきっかけとなるのは、「自己成長に対する欲求」だけではありません。「社内やお客様に貢献したい(利他性)」「同期や同僚との勝負に勝ちたい(競争性)」、さらには「より安定して業務を回せるようになりたい(安全性)」など、様々な内発的動機づけが、「成長」や「成長への努力」という行動を後押ししうるのです。

だからこそ配属や指示された行動を本人の内発的動機づけと結びつけて認知させることによって、彼らのやりがいに大きな効能をもたらせるのです。

 
 

オンボーディングプランの目標を設定しましょう

オンボーディング(入社/新配属)を成功させるために、部門のマネージャーは最初の3日間、30日間、90日間における目標を設定することが重要と言われています。どのような目標が適切かは諸説ありますが、以下の目標を設定することをおすすめします。また、これらの目標設定時には、個々の「内発的動機づけ」を理解することが非常に重要です。

  • 最初の3日間:新しい仕事に対して前向きな印象を持つこと。

  • 30日間までに:同僚との関係を築くこと。

  • 90日間までに:業務のスムーズな遂行に向けたプロセス、スタイル、コミュニケーション方法を確立すること。


最初の3日間:新入社員の内発的動機づけを理解し、良いスタートを切る

新しい部下との初対面で、「あなたの内発的動機づけは何ですか?」という質問をするのは、ほぼ無理と言っていいでしょう。そこで、代わりに以下のような質問を検討してみてください:

1. 「今までで、一番やる気を感じた瞬間は何ですか?また、その時の状況や理由を教えてください」
2. 「逆に、最もやる気が低かった瞬間や、やる気をなくした理由は何ですか?」

これらの質問を通じて、部下の内発的動機づけを探ることができます。この情報を把握することは、新入社員の内発的動機づけと、新しい仕事への前向きな印象を結びつけるのに役立ちます。マネージャーにとっても、新入社員がどのようにしてその仕事が自身の内発的動機づけに繋がるかを説明することが簡単になるでしょう。


30日間までに:関係性を構築しましょう

30日間で重要なのは、同僚や一緒に仕事を行う社員との関係を築くことです。
ここでは、一緒に仕事をする社員との「1on1ミーティング」が効果的です。まず、新入社員が一緒に仕事をする社員をリストアップしましょう。部署内外を問わず、7~8人程度のリストで十分です。そして、配属から30日以内に、これらの社員全員と30分~60分の1on1を行います。トピックは自己紹介、お互いの仕事への理解や期待、仕事の進行に関する注意事項などが含まれるでしょう。このような1on1ミーティングを行うことで、お互いに声をかけやすくなり、スムーズなコミュニケーションが取りやすくなります。

これは一種の「オフィス内ランチ」や「飲みニケーション」のようなものかもしれませんが、業務時間内で、お酒を飲む必要もありません。そのため、気軽にコミュニケーションが取れる方法と言えます。


90日間までに:スムーズなスタートをサポートしましょう

業務研修を終え、関係を築けたとしても、最初の90日は新しい環境に適応する過程では慣れていないことや分からないことも多く、ストレスやモチベーションの低下といった障害に直面しやすいものです。この期間にマネージャーが注力すべき重要なタスクは、これらの障害を迅速に解消することです。

しかし、モチベーションの低下をどのように把握すれば良いでしょうか?直接「最近、やる気はありますか?」と尋ねるのはあまり効果的ではありません。

ここで「内発的動機づけ」を理解していれば、こうした問題に気付くのが格段に容易になります。例えば、部下が「周囲からの反応(フィードバック)」を内発的動機づけとして持っている場合、彼らに対して「最近周囲からのフィードバックは貰えていますか?」「入社後、同期から褒められたことはありますか?」など、内発的動機づけに関連する質問をすることができます。もしネガティブな回答が得られれば、「この社員のモチベーションが低下している可能性がある」という兆候として察知でき、迅速に対処できるでしょう。

まとめ

最近では、特にグローバル企業の間で、「オンボーディングの体験こそが、その後の働きがいやモチベーションに大きな影響を与える」という考えが広がっており、人事戦略でも「オンボーディング体験の改善」が重要なトピックとなっています。

これまでのオンボーディングは、個々のマネージャーの価値観やスキルに依存していることが多く、個別性が強調されてきました。このアプローチを成功させるには、マネージャー個人だけでなく、組織全体でオンボーディングを設計し、同時に新入社員個々の特徴を理解することが必要です

しかし、こうした個人の特徴をどのようにオンボーディングに組み込むべきかについては、まだ議論が不足していると感じます。この記事で示したアプローチが、人事部長やその候補者の方々にとって、有益な議論の材料となれば幸いです。


Attunedとは?

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飯田蔵土

EQIQ株式会社Attuned事業部営業責任者

外資系メーカー事業部長、コンサルティングファーム、M&Aアドバイザリーなどを経て現職。一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了(MBA in Finance)

行動経済学会会員