タブートークが職場における影響
職場でかつては禁忌とされたトピック、例えば人種、ジェンダー、性的指向、メンタルヘルスなどについて、今では日常的に議論されるようになりました。これがどのような影響を及ぼすのか、専門家の意見を交えて探りました。パネリストにはノースカロライナ大学チャペルヒル校のキーナン・フラグラー・ビジネススクールで組織行動学の准教授を務めるシムル・メルワニ氏とダーラム大学ビジネススクールで同じく組織行動学の准教授を務めるデン・インリー氏をお迎えしました。
職場での自己開示のメリット・デメリット
職場でオープンになることには両面性があるといいます。自己開示は人間関係の構築や多様な視点の導入につながります。しかし、マイノリティグループにとっては感情的負担が大きいかもしれないため、注意が必要です。利点と欠点をまとめると以下のようになります。
利点:
従業員が価値を感じ、職場での包摂感が高まる
理解、共感、尊敬が促進され、コラボレーションやイノベーションが向上
深い関係を築きやすくなる
欠点:
感情的な負担が増加する
恥や不安、ストレスなどのネガティブな感情が生じやすい
恥の感情が行動に及ぼす影響
子育てと仕事の両立に悩む働く親の例が示すように、恥の感情を感じると人は回避や撤退、あるいは過剰補償などの行動をとりがちです。これは負の感情を周りにバレたくないという感情の弊害といえます。組織は、そうした心理的メカニズムを理解しサポートすることが求められます。
今の若者世代は自分が解雇されたことを動画にして公開することがあります。こういった行動を恥ずかしくてタブーな行動だと思う人もいると思います。自分の失敗に対してオープンになっているのは社会や時代の変化を表しているかもしれませんが、羞恥心に対する世代間のギャップというものを認識するのも大事なのかもしれません。
陰謀論的信念がもたらすもの
不確実性の高い状況下では陰謀論的思考に陥りやすいと言われています。一つの例としてコロナウイルスとワクチンの重要性に対する陰謀論的信念が挙げられます。デン氏はご自身の研究でCOVID-19関連の陰謀理論を信じる人々は、ワクチンの重要性を軽視しがちであることを発見したと述べました。すなわち、理性や自制心を失っている人ほどそうした思考に偏った人の説明に魅力を感じる傾向にあります。だからこそ、相手の立場になって考える努力が陰謀論的思考に影響されないのに欠かせないと言えるでしょう。
フレネミー関係とゴシップの機能
フレネミーとはfriend(友達)とenemy(敵)を組み合わせた造語です。愛憎が入り混じった複雑な関係や、ゴシップを介した社会的なつながりの形成は、職場特有の人間関係のダイナミクスです。真の自分を隠して演じることは長期的に精神的負担になります。ゴシップを共有することは、相手に対して弱さを見せることであり、ポジティブな気分を引き起こす可能性があるとメルワニ氏は話していました。心理的な距離が近づくことで信頼関係を築きやすくなるのです。興味深いことに、ゴシップの内容が肯定的か否定的かにかかわらず、この効果は同じだそうです。
まとめ
パネリストは、職場におけるデリケートな話題について議論することの重要性を指摘しつつも、個人のアイデンティティを尊重しながら誰もが公平に発言できる環境づくりが肝要だと強調しました。とは言っても、全ての人にオープンである必要はなく、職場でどこまで共有するかには注意が必要です。タブートークは諸刃の剣ですが、職場のコミュニケーションと心理的安全性の向上につながる可能性を秘めています。