いまリーダーシップ論の世界で注目されていること 「自律性」と「心理的安全性」

 
 
 

今回は【Next Genリーダーが“心”と“価値観”を大切にする理由とは?】全4回シリーズの第1回【いまリーダーシップ論の世界で注目されていること 「自律性」と「心理的安全性」】セミナーについてレポートをしていきます。

人が担う仕事には、創造性と協調性がますます求められるようにー10年後、約半数の仕事はAIに置き換えられるとの調査結果がありますが、これに対し置き換え不能な人材の条件とは「創造性と協調性」を発揮できることと言われています。つまり、次世代のリーダーシップには、人材の力をさまざまな方向に引き出し多様性を創出しながら、自律的に働いてもらうために支援することが求められています。

Attunedが4回にわたって開催する本セミナーでは、【Next Genリーダーシップを考える】を共通のテーマとして、人事・マネジメントの世界で重要視されているキーワードを毎回掲げ、各界の第一人者を招聘し、Attuned創業者のケイシー・ウォールとともに考えていきます。

第1回目のセミナーでは、米国Googleのカンファレンスでも注目されベストセラーとなっている『リーダーシップ3.0』(祥伝社新書)の著者であり、慶應義塾大学でリーダーシップ論の教鞭をとる小杉俊哉氏を招聘。本セミナーでは、自律型・支援型リーダーの育成をライフワークとして取り組まれている小杉俊哉氏が、企業研修や最新のリーダーシップ研究に接してきて、いま考えていることを伺います。



キャリア自律(セルフリライアンス)

昨今、企業は社員たちに自律的に働くことを求め、また自分で自律的に働き、自分のキャリアを作るといったことが多くなってきました。

改めて「自律」とは何でしょうか。

自律とは「自分の意志において選択している」ということです。ここで気を付けたいのは「自立」と「自律」の違いです。専門家でもよく混同して使っていることがあります。

「自立」とは、親の庇護から離れ、自分で生計を立てたり、上司先輩の手を煩わせず自分の仕事を行ったりすることです。一方で「自律」とは、自らの責任で仕事を創り出し、結果までを負っているという意味です。

まず第一段階に社会人として「自立」をした上で、次の更なる上の段階として「自律」が存在するのです。

複雑な問題を解決する時に必要な考え方

何か悪いことがあった時、つい会社や上司、国など誰かのせいにしてしまうことはあると思います。しかし、そうしていればそのうち素晴らしいリーダーやスーパーヒーローが現れて問題を解決してくれるのでしょうか。

もちろんそんなことはありません。そして自分自身が、そのように問題を引き起こしているシステムの一部であるということにも気が付かなければなりません。

無意識のうちに問題の発生・原因に自身が関わっていることを意識しなければ、システムを変えることはできないのです。しかし一人ひとりがほんの少し行動を起こすことで、小さなリーダーシップが積み重なり、次第に劇的な変化を遂げることができるのです。

Can + Will

自分自身が与えられた役割や業務「やるべきこと(Must)」とはマネジメントの領域であり、残業など無しにどんどん効率的に取り組んでいくべきです。業務時間の全てをここに充てているようでは仕事が楽しくなることはありません。

自身の役割や業務を超えて、会社の同僚やお客様、社会がもっと良くなる・喜ばれること「もっとやれること(Can)」に取り組んでいくべきなのです。新たに必要なスキルなどは行動している内に身に付けることができます。そしてさらには、もしあなたが会社から好きなことをしていいと託された時、自分自身が「やりたいこと(Will)」に取り組むことでしょう。この「もっとやれること(Can)」と「やりたいこと(Will)」の領域の接点、あるいは、「やるべきこと(Must)」と「やりたいこと(Will)」の領域の接点こそ、会社と個人のビジョンが重なる場所なのです。

そしてCanやWillに踏み入れることで、自然と自分自身に対してリーダーシップが発揮されるようになります。これこそ「自律(セルフリライアンス)」ができている状態なのです。

 
 

リーダーの在り方が変化する必要性

昨今では利益だけを追求するリーダーは、メンバーだけでなく顧客からも受け入れられることが難しく、自分や自社、売上だけが良ければ良いという考え方は多くの人が疑問を持つようになりました。自身のポジションにあぐらをかくのではなく、常に学習し、自己成長を怠らず、そして人々の成長のために尽くせることが強く求められるようになってきているのではないでしょうか。

オーセンティック・リーダー

上司だからといって自分の弱みなどを隠そうとしても、簡単に部下や周囲には気付かれてしまいます。決してリーダーとは弱みひとつ無い完璧である必要はなく、フォロワーにとってはリーダーの足りない部分を支えたい、良いところをもっと伸ばしてあげたいと思って、支援してついていくものです。したがって自分の弱さを見つめ表出し、周囲に助けを求める、そして感謝することが上司という立場においても必要となります。その上ではじめて他社理解や他者受容ができるようになるのです。

ミラー・ニューロン

人間は真似をする動物です。リーダーの心の動きや振る舞いをきっかけに、フォロワーも同じような感情を抱き、同じような行動を取るようになります。上司が強面で指示を出すと、部下も緊張感によって硬くなります。一方で上司が微笑み、笑うと部下はそれを感じとる、つられるようにして笑顔を作ります。よく笑い、おおらかな雰囲気作りができる上司の下では、部下たちもポジティブな気持ちが活性化され、チームの一体感は高まるのです。そしてそのようなチームは、業績もまた上がることが様々な調査で検証されています。

優れたリーダーは、他者の能力を引き出す力に秀でています。

「リーダーシップ4.0」これからのリーダー像

これからの時代は、組織の全ての構成員がリーダーシップを持つことで、強い組織を作ることができると考えています。ここでいうリーダーシップこそ「自律」です。このような状態を作るためには、現状をただ放っておいても達成されません。組織やチームを率いる経営陣や上司が支援者(リーダー)となって、部下や周囲の人たちに対して、自律的にリーダーシップを持って動けるようになるために支援をすることが必要になります。こうすることで一人ひとりの社員がリーダーシップを発揮する強い組織を作ることができるのです。

では具体的にどのような支援が必要になってくるのでしょうか。

■メンバー全員に対して

  • 理念やビジョンの共有をすること

  • 風通し、関係性をよくし、信頼関係の醸成に務めること(組織開発)

  • 安心して発言できる環境を用意すること(心理的安全性)

■一人ひとりのメンバーに対して

  • メンバーの自律性、ポテンシャルを引き出す

  • メンバーの声を聴く

  • メンバーの意見を引き出す肯定的な質問をする

これらを実際に実行する場が1on1ミーティングです。実施前に何のためにやるのかの目的を共有するなど、管理者側のスキル醸成も必須となってきます。

小杉俊哉氏とケイシー・ウォールの対談

 
 

ケイシー 小杉先生と私のモチベーターレポートを出してみました。2人に共通しているのは「自律性」に対するニーズの強さですね。もし今後私たち2人で会社を一緒に作るとなった際に、その会社は自然に自律性の高い環境になると思いますか?

小杉 なると思います。自律性がやる気につながると分かっているケイシーさんは、人を管理したいと思いますか?

ケイシー 管理したくないですね(笑)

小杉 そうですよね。 むしろ一人ひとり自律的に動けた方がコンフォータブルですよね。

ケイシー でも会社に入る人みんなが必ず自律性が高いとは限らないと思います。そういう人たちはどのようにして育つのでしょうか。おそらく私はそのような人たちに最初違和感を感じてしまうと思うんです。

小杉 動機づけに関する理論に、X理論とY理論があります。X理論は、部下に対して見張ったり指示を出さないとサボるのではないかと考える性悪説です。一方でY理論は、元々皆が自律的に創意工夫して取り組むものだと考える性善説です。

例えばケイシーさんはY理論を信じるマネージャーではないでしょうか。

X理論の人は、人を管理しないと心配で仕方がないんです。実際にお話をしたことのある経営者の方々でも「理想は管理したくないけど、うちの社員はとても自律的とは遠くて、到底無理ですよ」という声も聞きます。その際に私はいつも「では、いつになったら社員たちに任せられるようになるんですか?」と質問します。

決して一流大学出身者やMBAを持っている人、コンサルティング出身者が多く入社してきたからといって自律的な集団になるという話ではないんです。先輩が自律的に働いていたり、経営者が自分たちに任せてくれるという環境であれば、自然と自律的に動くようになります。経営者がどのように社員を見ているかによって、社員たちがどう動くのかが大きく変わってくるのです。

 

ケイシー なるほど。逆に経営者やマネージャーたちが自律性の価値観が低い組織である場合、自律性の高い組織に変えるというのはやはり難しいのでしょうか?

小杉 かなり大変ですね。

第一歩は経営者が変わろうとすること。経営者自身が自律的になること、Y理論で自律的な組織運営に変えようということが重要になります。

そして社員一人ひとりが自律の重要性を理解すること。私も研修プログラムなどを通して、お手伝いをした企業が数多くありますが、その中の一社では若手社員から研修を行い、次いで若手からの要望で管理職層へも研修を行い、役員層も外部アセスメントを使いながら啓蒙し、地道に全社員にアプローチし続けて、8〜10年かかってやっと十分な成果が見えてきました。そして18年経ったいまでは、最初に研修プログラムを一緒に作った社員が社長となり、今では完全に自律性の高い組織へと変わりました。

ケイシー 今日の講演を聞いている人たちの中には、これから組織を変えていきたいと考えている人たちも多くいらっしゃると思いますが、やはり8年など長い年月を覚悟しておかないといけないのでしょうか?

小杉 オーナー系企業だと、鶴の一声により短い期間で変化を生めるかもしれません。サラリーマン社長の企業だとなかなか難しいかもしれませんね。ただ経営者が自律的であることに意味を感じていなければいけません。


この後も講演参加者との質疑応答などもあり、自律性や今後のリーダーシップ像についてディスカッションが活発に行われました。【Next Genリーダーが“心”と“価値観”を大切にする理由とは?】全4回シリーズの第2回の開催も決定しております。

ウーマンズリーダーシップインスティテュート株式会社代表取締役の川嶋治子さんをお招きし「未来を作るリーダーが知っておきたい 半歩先のD&Iとオーセンティックリーダーシップ」と称してお話をいただきます。

第1回にご参加いただけなかった方でも、ぜひご興味ありましたらこちらよりお申し込みください!単発でのお申し込みも、全ての回通しでのお申し込みも可能です。

第2回の開催日時は2022年4月26日 午後2時〜3時です。