心理的安全性をつくりだす1-on-1ミーティングの組み立てかた
GoogleやIntel、Microsoftをはじめとして、アメリカを本社とする好業績のエンゲージメントが高い会社の実に85.7%が1-on-1ミーティングを導入しています。
日本ではYahoo! Japanがいち早く導入し、現在では1-on-1ミーティングを取り入れている日本企業も増えてきました。
1-on-1のノウハウを培ってきたグローバル企業では、どのように1-on-1を根づかせ、活用しているのでしょうか。
2020年5月31日(月)、新卒から外資系IT企業で揉まれてきた当社の飯田を講師とし、1-on-1セミナーを開催しました。
当記事ではセミナーの内容をもとに、1-on-1を成功させる思考法と活用法について紹介していきます。
これまで通りの「管理」では、リモートワークに対応できない
アメリカでは部下のマネージに80%の時間を使っており、それに対して日本は約20%の時間であるという調査があります。少し信じがたい結果かもしれませんが、私自身の感覚としてはまさにこの通りだと思っています。
また熱意のある社員の割合に関しても、比較的肌感覚と揃っているように思います。
こんなにも多くの時間何をしているのか、マネージとは何なのかと不思議に思われる方もいるかもしれませんが、これに関しては「マネージ」と「管理」が別の概念であるということが非常に重要な考え方になっています。
管理とMANAGEの違い
具体的には、「管理」とはある基準から外れないように統制をするというものです。あるいは保存、維持です。
対して「MANAGE」はなんとかするという意味になっています。様々な課題を何とかする、そして上手く結果を出すというものです。
マネージャーという言葉には、現場レベルでなんとかするという意味が込められています。
リモートワークと「管理」は相性が悪い
最近よくいただくお声に、「リモートワークでの管理がうまくいかない」というお声がありますが、よく考えるとリモートワークは「管理」には全くそぐわないんです。
これはご紹介したように、管理がある基準から外れないように統制をするということになると、常に見張っている必要があります。これまでは席で島を作ってみるということが可能だったんですが、リモートワークになると全く見えないので管理が非常に難しくなります。
一方「マネージ」という考え方であれば、どうにかやってみるという考え方なので、リモートであっても目の前であっても変わらないんですね。リモートワークであっても、与えられた状況の中でどうにか上手くやってみるということが求められています。
生産性が高いチームの共通点は心理的安全性
何をマネージするのかということについては、心理的安全性をマネージすることがポイントとなります。そもそも心理的安全性について、本格的に知られるようになったのは、Googleが自社内のチームを調査し、高い成果を出しているチームの共通点として発見したことがきっかけでした。
その際、当初仮説として立てられていた、マイクロマネジメント/放任主義/緊張感/アットホームさなどの環境は成果には関係していませんでした。
一方で、どのような環境・マネジメント方針であれ、心理的安全性が確保されていれば効率的に成果を上げられるチームであることが分かったのです。
「言える化、聞ける化」された環境を作るために
心理的安全性は言い換えると、自分の思ったことを言える、わからないことを聞けるということでもあります。こういうことが行われている組織はどういう形であっても生産性が高い。逆にどういった形であろうと、こういった心理的安全性のない組織は生産性が低いことがわかっています。
具体的な場面で言うなら、「どういうことですか?」と言えない、「その言葉の意味ってどういうことですか?」と聞けない。私自身も過去を振り返ってみるとそういう体験があります。
他には、みんながあるアイデアについて盛り上がっている場面なども想定されます。自分がそのアイデアについての重大な問題を見つけてしまったなどという場面でも、誰かすでに検討しているんじゃないか、またどうして水をさすのかなど、ネガティブな人間だと思われるかもしれないという懸念から伝えることができない。
これが心理的安全がない状態で、心理的安全性を大きく阻害している状態だということができます。
「和気あいあい」と心理的安全性は別物
また心理的安全性についてよく質問されることとして、心理的安全性のある環境はぬるま湯のような環境なんじゃないかと言うものがあります。しかしこれについては、「心理的安全性と和気あいあいは無関係である」ということが同じく研究で証明されています。ギスギスした環境であっても、心理的安全性が確保されていることもあるのです。
私が以前所属していたある会社では、かなりストレートに物事を伝え合おうという文化がありましたが、それは決して和気あいあいとしているわけではないながらも心理的安全性が確保されていた環境だったと振り返って思います。
心理的安全性の確保を目指すことは、ただ仲のいい場所を作ろうというのとは全く違います。むしろ仲が良すぎるとその関係性を阻害するために心理的安全性が十分に確保されないこともあるのです。
心理的安全性を確保するために、リーダーができること
今日、心理的安全性についてずっとお伝えしているのは、マネージャーがマネージのゴールとして考えるべきものがこの心理的安全性だからです。もっと言えば、心理的安全性の確保こそがリーダー、マネージャーがやるべきことだということができます。わからないことをきちんと聞くことであったり、それに応じてきちんとアウトプットの質を上げるということが非常に重要ですし、またリーダーとしては、部下が率直に物を言えるような関係性であることも必須になります。
したがって、心理的安全性をゴールとする以上は、思っていることを部下が率直に話せるような関係性である必要があります。
外資系の企業では1on1が根付いているとお伝えしているのですが、その理由を一言で言うなら心理的安全性を確保することがゴールとなる1on1がツールとして根付いているということに尽きると思います。
1on1をルーチン化する際のTips
この先は実際に持ち帰っていただきたい、形式的な部分をお伝えします。
やるなら、定期開催
もし1on1を根付かせたいと思うなら、とにもかくにもマネージャーに向こう半年分カレンダーなどに定期開催のスケジュールを確保させるということをやっていただきたいです。難しいのであれば3ヶ月に1回でもいいので、とにかく定期開催をするということがを絶対にやってください。
必ず、プライバシーを確保できる場所で
言いたいことをいうためには周りが気になると言えないということがあるので、プライバシーを確保できる場所で行ってください。
業務の打ち合わせにしない
業務の打ち合わせにすると心理的安全性の確保に繋がらないので、これは徹底してください。
次回までのTODOを決める
最後に一言メモでもいいので残しておくと、これが次回の1on1へのモチベーションになります。
自分について語るなら、武勇伝ではなく失敗談
武勇伝を話すと部下は想像以上に萎縮するので、絶対に武勇伝ではなくて、失敗談を話してください。失敗談を話すと舐められるのではという声もありますが、そのストーリーが部下には参考になりますし、いざ失敗をした時に相談しやすい関係性の構築に繋がります。
傾聴する
聞こうと思っても相手が話してくれないということがあります。このときマネージャーに必要なのは「なんとかする」という姿勢です。効果的な質問というのは相手によって違います。その際相手に応じてなんとかするということが必要になってくるのです。
1ON1の質問は相手の内発的動機によって変える
同じことを聞いても人によって効果は全然違います。例えばフィードバックがモチベーション、やりがいになる人にとってはこの画像で投げられている質問はいい質問であり、率直に話をするきっかけになります。でも一方でフィードバックがあまりモチベーションにならない人もいます。また一度成功したからと言って同じ質問を繰り返すと、全く引き出せなかったりします。
結局は人の関心に基づいていたり、人のやりがいに繋がっているため、人によって異なる質問が必要なのです。
いい質問をすることは難しいですが、漠然と「やりがいを感じているか」のような質問だと、答えづらくなることもあります。もう一歩踏み込んだ質問をすることによって、率直な意見を引き出すことができるのです。
部下を理解するということは、その部下が詰まるところどういうところに関心を持っていて、何を一番気にしているのかということについて、正しい理解をするということになるのです。
1on1で使える効果的な質問一覧
では、心理的安全性づくりを前提とした1on1でどのような質問をするのが効果的なのでしょうか。
効果的な質問を部下のモチベーションに合わせてまとめてみました。
安全性を重視する部下に対して
業務の進め方で気になることはある?
合理性・自律性を重視する部下に対して
仕事で「無駄だなぁ」って思うことある?
フィードバックを重視する部下に対して
皆からフィードバックは十分もらっている?
競争性を重視する部下に対して
目標は達成できそう?
何かボトルネックになってることはある?
成長を重視する部下に対して
何か学びたいことはある?
何か自分の能力や経験が足りないと思うところはある?
創造性を重視する部下に対して
インスピレーションもらえる人はいるか?
チームの働き方を改善する提案はある?
利他性を重視する部下に対して
チームの働き方を改善する提案はなにかある?
誰かにサポートやアドバイスできると思うことある?
部下一人ひとりに対してパーソナライズされた、その部下に合った質問を選ばなければ、興味をもって聞いてくれず、最悪の場合答えてもくれないでしょう。重要なのは、その部下が聞いてほしいと思っていること、話したいと思っていることに対して、価値観に合った質問をすることです。これこそが心理的安全性をつくる「効果的な質問」です。
どんなときでも1on1で使える質問
今週の最優先事項は?何か手伝える?
私がマネジャーとして改善できることはある?
また、上記は心理的安全性を高めるために、いつでも使える質問です。覚えておくと使える場面があるでしょう。
さらに、部下から声や要望を聞いたら、それと向き合って実現する努力をすることも重要となります。要望を聞いたうえで実現することで、強い信頼感につながるはずです。また、求められない限りアドバイスをしないという事と合わせて、部下が委縮してしまうような強硬な態度を取ることも止めましょう。
またここでご紹介した質問はあくまで一例です。ぜひご自身の部下にあった質問を作成し、使ってみてください。
まとめ
1on1は目的ではなくあくまで手段です。そして目的は生産性であり、その目的を達成するためには高い心理的安全性を確保する必要があります。効果的な質問に関しては、その人のやりがい、モチベーションがどこにあるかを探ることを、マネージャーの皆さんには注力していただきたいと思っています。
またこういうことを仕組み化、言語化することで1on1を根付かせることにつながります。また初めていただくと比較的早いタイミングで効果を実感してもらえると思いますので、ぜひお試しいただければと思います。
飯田蔵土 Attuned セールス シニアマネージャ
新卒でHPにSEとして入社し、その後米国本社経営企画部門へ異動。複数の大手外資系企業にて戦略コンサル、事業部長、オペレーションズ本部本部長などを務め、AIベンチャーへの参画を経て現職。FAX注文書の入力から、多国籍企業間のM&A、営業、FP&Aまでカバーする。一橋大学大学院修了(MBA in Finance)