「心理的安全性と内発的動機」はどのように時代の不確実性に打ち勝つのか?

 
 

Attunedの心理学者であるメリッサ・タラントラ博士による、 最新のホワイトペーパー「心理的安全性を高める“アフターコロナ”の職場づくり」を公開いたしました。
企業が心理的安全性と内発的動機づけを職場文化に組み込む方法を、 最新の学術論文を中心に調査し、 今日から始められるシンプルで効果的な戦略を紹介しています。

ホワイトペーパーは、こちらから無料でダウンロードしていただけます。 本ブログでは、3回に渡りホワイトペーパーの内容をご紹介していきます。




現在多くの企業が取り組んでいる、あるいは検討している働き方の変化と再構築のプロセスは、「不確実性」「複雑性」「学習」「リスク」という4 つの特徴を持つ環境下で起こっています。

不確実性:ハイブリッドな職場環境に移行するプロセスは、誰にとっても未知のものです。 いつどこで、どのような努力をすれば、満足のいく解決策が得られるのかは誰にもわかりません。 このような不確実性の高い問題には革新的なソリューションが求められますが、このよう場面で社員からの声を集め、それらを効果的に活用することができれば、より早く強固な解決を行うこと ができます。

複雑性:ハイブリッド型の仕事は、場所やスケジュールのばらつき、新たな守秘義務の発生やテクノロジーへの順応、働く場所の違う社員への公平性への配慮などの新たな課題により、従来の仕事よりも複雑になります。

学習: 新しい仕事の仕組みを導入することで、企業は社員にこれまで以上に学習と適応を求めます。社員は新しい仕事に適応し、企業は社員に対して学習プロセスを最適化するために必要な種類のツールや環境を提供する必要性が生まれます。

リスク :全く新しい働き方をデザインすることは、失敗する可能性を伴います。新しいビデオ会議ツールを使ってみたら、2 週間後にはニーズに合わなくなっていたり、時差出勤を試してみたら、あるチームではミーティングの手配が非常に困難になっています。 しかし改革には失敗がつきものです。経営者も社員もリスクに慣れ、失敗を損失ではなく改善のための情報源として扱うことを学ぶ必要があります。

これらの特徴から、企業は新しいハイブリッドな職場環境を再構築するために、社員を中心としたアプローチをとる必要があるという結論が導かれます。
つまり職場環境の再構築に伴う課題を解決するためには、社員が企業にとって最も効果的で貴重な資産であることを認識するということです。 社員はアイデアをもたらし、ミスを発見し、技術の採用を最適化し、失敗を貴重な情報に変えてくれます。
しかし社員が企業のために行う望ましい積極的行動(Desirable Proactive Behaviors ; 以下DPB)は、簡単に実現できるものではありません。 社員を資産として適切に活用するためには、経営者や CEO は燃え尽き症候群やモチベーションの低下を招くことなく、社員の DPB への関与をサポートする環境を提供する必要があります。 Ju, Ma, Ren, & Zhang (2019)が述べているように、そのためには、次のような 2 つのアプローチが必要です。 それは、(1)DPB への障壁を減らす、(2)DPB へのモチベーションを高める、という2 つのアプローチです。

心理的安全性による障壁の低減


会社の目的達成のためになるDPB を行うかどうかを検討する際に直面する壁とは具体的にどのようなものでしょうか。 主には、社会的影響と行動的影響を受けるリスクが考えられます。社会的影響とはトラブルメーカーやクレーマー、困窮している人としてのレッテルを貼られることなどで、行動上の影響としては業績低下という評価や解雇などです。

ここで「心理的安全性」の出番です。 心理的安全性とは、この概念の主要な研究者であるハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソンが定義したもので、「職場環境が対人関係のリスクを取るのに安全であるという信念」であり、「関連するアイデア、質問、懸念事項を率直に話すことができると感じる経験」を指します。 心理的安全性が存在するのは、「同僚が互いを信頼・尊重し、率直に話すことができると感じているとき、さらには義務感を持っているとき」です(Edmondson, 2019, p.8)。 また「新しいアイデアがバラバラにされて嘲笑されるのではなく、歓迎され、それを基に構築されるときであり、同僚は異なる視点を提供したとしても、それによってあなたに恥をかかせたり、罰したり、何かを理解していないと低く評価することはありません。」(Edmondson, 2019, p.15)。

心理的安全性が組織にもたらすメリット

さらにエドモンドソンは、心理的安全性は不確実性が高く、イノベーション、学習、コラボレーションを必要とする状況で最も価値を発揮することが示されていると説明しています。これは今日、多くの企業が置かれている状況と同じだということがお分かりいただけると思います。
心理的安全性の価値は、社員が自己防衛や非難に集中するのをやめて、共通の目標を達成する ことに集中できるようにすることです(Edmondson,2019)。 Newman, Donohue, & Eva(2017)の文献レビューで報告されているように、心理的安全性は非 常に多くのメリットを提供することが研究で示されています。またこの報告では、心理的安全性がパフォーマンス(目標達成、資産収益率など)、創造性と革新性、失敗から学ぶ能力、新技術の導入などを高める能力があるという証拠が詳細に示されています。その結果、知識の共有、率直なフィードバックの提供、意見の相違の提起、エラーの指摘といった形で、コミュニケーションが改善されることがわかりました。
また組織へのコミットメント、仕事に対するエンゲージメント、チームワークに対する肯定的な態度、新しいチームメンバーに対する信頼感の向上にも関連しています。 最近の研究では、心理的安全性が内発的動機づけのレベルを高めることにつながるという証拠も発 見されています(Kim & Kim, 2017)。

 
 

内発的動機づけによるモチベーションの向上


DPB を推進するためのモチベーションについてはどうでしょうか。
DPBへのモチベーションは、その他の望ましい行動のようにインセンティブが与えられることはありません。具体的には DPB は契約上要求されていないので、業績評価が DPB に左右されることはなく、社員は報酬を得ること はできません。 罰も報酬もないので、インセンティブが働かないのです。 したがって心理的に安全で障壁が低い環境であっても、動機づけのサポートがないために、社員が DPB に取り組まない可能性があります。

このような知識があれば、DPB の実行に対しても金銭的または地位的なインセンティブを与えることが妥当な対応であるように思えるかもしれません。しかし残念ながら、その解決策はそれほど簡単ではないことが研究によって明らかになっています。 このような外発的な動機づけを行っても、DPB へのエンゲージメントは向上しません(Lin, 2007)。むしろDPB における社員のエンゲージメントを予測する上で最も重要な要素は、内発的動機づけであると考えられています(Lin, 2007; Ryan & Deci, 2017)。 内発的動機づけとは、面白い、楽しいという理由で行われる行動に対する動機づけであると定義されています(Ryan & Deci, 2017)。その行動に取り組むことで得られる楽しさの感覚が、その行動を継続して行う動機となるのです。 さらに内発的動機づけに基づく行動は、定義上、外部からコントロールされたり強制されたりするものではなく、純粋に個人の選択によって行われるものです。たとえ楽しくても、お金を得るため、恥をかくのを避けるためなどの理由で行動が行われた時点で、それはもはや内発的とは言えま せん。


内発的動機づけを構成する3つのニーズ

内発的動機づけの有力な理論である自己決定理論(Ryan & Deci, 2017)によると、内発的動機づけは、個人が本能的な以下の 3 つの心理的欲求を満たすことによって現れるとされています。 ・自律性(自分の行動は強制されたものではなく自発的であり、自分の価値観と一致していると感じる欲求) ・有能性(自分の能力とその証明に対する欲求) ・関係性(他者からケアされていると感じ、集団への帰属意識を持ち、重要な形で他者の生活に貢献する機会を持つ欲求)

経営者は、社員が自律性、有能性、関係性を感じられるような職場環境を構築することで、社員の内発的動機づけを高めることができます。 逆にこれら3 つの欲求をサポートできなければ、内発的動機に悪影響を及ぼします。 またこれら3 つのニーズと密接に関係しているのは、内発的動機づけだけではなく、ウェルビーイングも同様にこれら3 つのニーズが満たされることで養われ、満たされないことで枯渇するという研究結果もあります。


内発的動機づけにフォーカスするメリット

Attuned は、前述した 3 つの本能的な心理的欲求の充足につながる、仕事の価値、面白さ、楽しさを分類した 11 の主要な内発的動機づけを特定し活用しています。 「利他性」「自律性」「競争性」「フィードバック」「ファイナンス」「創造性」「成長」「合理性」「安全性」「社交性」「ステータス」です。これらの動機を理解することで、社員を励ましサポートするための最善策が見えてきます。

 
 

内発的動機づけは、何十年にもわたって莫大な研究支援を受けており、現在はさまざまなポジティブなメリットと関連づけられています(Ryan &Deci, 2017)。40 年以上にわたって行われた何百もの研究から得られた証拠を評価したメタ分析は、明白な結果を明らかにています。 内発的動機づけは、知識産業やハイテク産業の中心となるような仕事の高品質なパフォーマンスや継続性を中程度から強く予測するものです(Cerasoli, Nicklin, & Ford, 2014)。 つまり内発的動機は複雑で、個人のリソース(批判的思考スキルや自己管理など)を活用することに加えて幅広い焦点を必要とし、事前に定義された成果を持たない仕事の高品質なパフォーマンスを強く予測するというものです。

メリットはこれだけではありません(Ryan & Deci, 2017)。社員レベルでは、内発的動機づけが仕事への関与、組織へのコミットメント、経営者や会社への信頼、社員の幸福感、仕事への満足度の高さ、会社の価値観の内在化と変化への適応の高さ、創造性と学習成果の向上を予測すること が研究で明らかになっています。また組織レベルでは、内発的動機づけが組織の収益性の向上、組織の有効性の向上、顧客満足度の向上を予測することがわかっています。そして今回のトピックにおいて特に関係性が高いのは、内発的動機づけは DPB への関与も予測できるということです(例 えば、Lin, 2007; Ju, et al.2019)。

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ホワイトペーパー:心理的安全性を高める “アフターコロナ”の職場づくり


Melissa Tarantola PH.D

心理学(博士)。
現在Attuned R&Dチームに所属。ミズーリ州立大学コロンビア校にて医療心理学のPH.Dを取得後、複数のベンチャー企業で心理的アプローチによるモチベーション、アディクション研究に取り組んでいる。米国心理学会員。
東京インターナショナルスクールで英語を学んだ経験もある。