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新しい仕事環境の創造と調整における心理的安全性と内発的動機づけの役割

Attunedの心理学者であるメリッサ・タラントラ博士による、 最新のホワイトペーパー「心理的安全性を高める“アフターコロナ”の職場づくり」を公開いたしました。
企業が心理的安全性と内発的動機づけを職場文化に組み込む方法を、 最新の学術論文を中心に調査し、 今日から始められるシンプルで効果的な戦略を紹介しています。

ホワイトペーパーは、こちらから無料でダウンロードしていただけます。
本ブログでは、3回に渡りホワイトペーパーの内容をご紹介していきます。


オフィス再構築のためのアプローチをカスタマイズする

すべての企業にとって、リモートワーク、オフィスワーク、ハイブリッドワークなど、どのような体制がベストなのかという問いに対して、決まった答えは存在しません。同じ業界の企業であっても、そのニーズはさまざまです。また同じ会社でも、チームや社員一人一人のニーズは異なります。
例えば、自分でスケジュールを組み、自分で仕事のスタイルを決めることができることで最もモチベーションが上がる社員がいる一方で、外部の支援や指導を受けて成長する社員もいることがわかっています。また上司がデスクに立ち寄って頻繁にフィードバックしてくれると元気が出る社員もいれば、コミュニケーションを週に一度の Zoomミーティングに限定したいと考える社員もいます。 要するに、業界、会社、チーム、そして社員一人ひとりのニーズに合わせて、綿密にカスタマイズされた解決策を見つけることが、各企業にとっての最適解なのです。

会社ごとに作られるアプローチが最良の行動で選択であるというこの感情は、Institute for Employment Studies の研究でも裏付けられており、他の場所でベストプラクティスとされているマネジメント手法を採用するよりも、「自社にとっての最適解」のアプローチを開発する方が効果的であると結論づけています(Hirsch & Tyler, 2017)。 さらに研究者は「自社にとっての最適解」は、会社の優先事項、社員の願望、文化など、さまざまな要因を考慮した上で判断すべきだと提言しています。


挑戦/評価/微調整のアプローチ

しかしこれらの新たな試みが最初からうまくいくことはほとんどありません。 そのため企業はすべての計画を明確に暫定的なものとして、新たな情報が入って来るたび計画を微調整して更新することが推奨されています(Vaillancourt, 2021)。つまり、挑戦/評価/微調整(Try - Assess - Tweak)のサイクルです。 このサイクルの中心となるのは、頻繁に情報を収集し、それをもとにリアルタイムで更新・改善を行うプロセスでしょう。 この Try - Assess - Tweak の手法は、米国のバイオ技術企業モデルナが新型コロナウイルスのワクチン誕生を可能にした創発的発見のアプローチにも似ています(Afeyan & Pisano, 2021)。創発的発見のプロセスは、しばしば非常に推測的な「もしもこうだったら?」という質問から始まります。

そのアイデアは具体的なプランとなり、テストと批判的なフィードバックを繰り返して失敗を確認しては、失敗を修正するために計画を変更するものです。このプロセスは、医療技術のブレークスルーや、革新的なハイブリッドの仕事環境の構築など、実行可能な解決策が現れるまで繰り返され ます。
創発的発見プロセスを支持する思想家たちは、このプロセスが機能するためには「不完全なアイデアを行き止まりとしてではなく、積み木のように捉え、アイデアの進化を共同責任と考える文化」が必要だと強調しています。

心理的安全性と内発的動機づけがもたらす仕事の再構築への効果

「テーラーリング(仕立て直し)/カスタマイズ」と「挑戦/評価/微調整」というアプローチの中心となるのは、いずれも社員です。社員は仕事の再設計プロセスの資源、後援者、犠牲者のいずれにもなり得ますが、心理的安全性と内発的動機づけは社員がこれらの役割のどこに位置するかに 影響を与えるものであると言えます。

リソースとしての社員

リソースとしての社員は、大きく2 つの方法で機能します。一つ目はアイデアの源泉として、二つ目はリアルタイムなフィードバックを提供してくれる存在としてです。

アイデアの源
社員は新しい職場環境をどのように再構築するかというアイデアを得るための最高の、そして場合によっては唯一の情報源です。自分自身と自分が行う仕事の現実についての専門家である彼らにアイデアを求めれば、社員と会社の両方のニーズに合った計画を立てることができます。

さらに言えば、ロックダウンにより全社員がリモートになったことで、社員が仕事で成功するために必要な自己認識を得る機会がこれまでになく増えたことで、社員の知識は以前よりも価値が高まっているかもしれません。1 つの会社で、全社員が同じ仕事を2 つの異なる方法で行い、メリット とデメリットを比較できる機会はそうそうありません。

フィードバックとエラー報告のソース
テストされる新しい仕事の構造に組み込まれているのは社員であるため、何が機能していて何が機能していないのかをリアルタイムで直接知ることができます。計画がどのように進んでいるかを判断するための定性的な証拠をその場で得ることができるのに、数ヶ月、あるいは数年かけて数字が戻ってくるのを待つ必要が、果たしてあるでしょうか。このようにすぐに入手できる定量的データは、大きな影響を与える小さな調整を行う際に特に役立つでしょう。

例えば、Edmondson (2019, p.37) は、ある病院のリネン配布システムの設計が悪いと、看護師の仕事に大きな支障をきたすという仮想的な状況を説明しています。リネンを十分に入手できなければ、看護師は作業を中断して患者を危険にさらすか、隣人から盗むことを余儀なくされ、恨み や怒りとともに隣人に不満を与えることになります。このような、簡単に解決できて大きな影響を与える問題は、社員からの直接の報告がなければ発見するのは難しいでしょう。

「心理的安全性」と「内発的動機づけ」が重要なのは、企業の再建における計画の最も重要なリソースが、社員のアイデアやフィードバックであるという事実からも明らかでしょう。自分のアイデアが酷評されたり、横取りされたりする懸念があるうちは社員は声を上げません。また変化に対して選択権がないと感じたり、決定事項から除外されたりすると、問題を発見したり解決策を考えたりするような内省的な行動をとるモチベーションが低下します。 したがって、上記の DPB に社員が参加するためには、雇用主が障壁を取り除き、社員の参加に対するモチベーションを高める必要があるのです。

後援者としての社員
心理的安全性を提供し、彼らの欲求をサポートする方法で社員に再構築プロセスに参加してもらうことで、社員がそのプロセスの恩恵を受けることもできます。 それはそのまま企業にとっての利益となることを、ぜひ覚えておいてください。 具体的には、社員が自分の仕事をやりやすくするためのアイデアを提供できる安全な環境や、他人のアイデアが自分に合わないときに率直にフィードバックできるスペースが与えられていれば、最終的に採用される仕事の仕組みが、結果的に社員の仕事を改善し、生産性を高め、満足感ととも にエネルギーを感じられるようになる可能性は非常に高くなるということです。

さらに、マネージャーが社員を再構築のプロセスに参加させる方法が、前述の 3つの本能的な心理的欲求(自律性、有能性、関係性)を満たすようにするように設計されていれば、社員は内発的動機づけとウェルビーイングの向上からも恩恵を受けることができます。イノベーション、複雑な問 題解決、コラボレーションなどの要素を持つこの種の仕事は、興味や楽しみといった内発的動機づけの経験に適しているため、内発的動機づけは、再構築プロセス自体への関与からも生じる可能性があります。さらに重要なのは、その仕事が会社や同僚、そして社員自身の改善につながる可能 性を秘めており、意味のあるものだと感じられるということです。


犠牲者としての社員
また再構築のプロセスに社員を参加させることで、そこから締め出されることによる反発や恨みを防ぐことができます。いくつかの企業で実際に行われた再構築の結果、社員から悪い評判を買ったことを説明した記事を見つけるのは難しいことではありません。 これらの話に共通しているのは、社員が自分の意見を聞いてもらえず、主体性がないと感じていることです。ミネソタ大学のある社員は、復職についての話は「権力についての話でもある」ことを上層部に理解してほしいと訴えました。そして「私たちの働き方に関する権力をすべて上司の手 に委ねることになれば、問題が生じる」と述べています(Perry,2021)。

この気持ちは、Apple CEO のティム・クックが近々完全なリモートワークを終了し、ハイブリッドワークモデルに移行すると発表したことを受けて、Apple の社員が送ったレターにも見ることが出来ます(Schiffer, 2021)。彼らは「この 1 年間、私たちはしばしば耳を傾けてもらえないだけでなく、時には積極的に無視されているように感じました」と述べ、「経営陣がリモートワークや働く場所の柔軟性のある仕事についてどのように考えているかということと、Apple の多くの社員の生きた経験との間には断絶があるように感じます」と指摘しています。 このレターは、管理者側の社員の懸念に対する理解と対応の欠如が、一部の社員の辞職につながったことを示すものです。

これは雇用主に対して、すべての決定権を社員の手に移すことを求めているわけでも、完全なリモートワークがベストだと言っているわけでもありません。むしろ重要なのは、これらの社員は「自分の欲求が無視され、アイデアが求められていない」と感じているということです。 自分には選択肢がなく、関心事に注目してもらうこともない。上司は自分たちの気持ちを理解するために時間を割いていないだけではなく、その意見や意思決定を信頼も重用してもして ないと感じているのです。このような状況は、内発的なモチベーションやその他の質の高いモチベーションを阻害し、社員のウェルビーイングを低下させることにつながります。

ここで心理的安内発的動機への支援の実践が必要になります。 もし、ティム・クックが復職方針の策定プロセスに社員を参加させていたら、たとえ結果は同じであったとしても、社員はその決定によってこれほどやる気を失うことはなかったでしょう。 社員の意見を積極的に聞き、彼らの心理的なニーズを優先するという環境の中で、企業が復職方針を作成するよう努力すれば、すべての社員にとって理想的な選択ではないにしろ、モチベーションやウェルビーイングを損なうことなく計画に対する意志とコミットメントの感覚を引き出すことが可能になります。



新技術の採用と学習における心理的安全性と内発的動機づけの役割

今日企業が直面しているもう一つの課題は、社員が新しいテクノロジーを学び、採用する方法を見つけ出す必要性が高まっていることです。
特にハイブリッド・ワークを実現するためのテクノロジーについては急務です。 この課題は目新しいものではなく、社員が新しいテクノロジーを学び、そういった人材を採用することを重視する傾向は何年も前から強まっています(Cetzee, 2019)。 企業は、デジタルワークツールを機敏に統合することが、イノベーション、効率性、グローバルな人材へのアクセス、そして顧客サービスとエンゲージメントの向上に不可欠であることを認識しています。
しかしその緊急性は、Covid-19 のパンデミックにより、世界中の労働者がほぼ完全にテクノロジーを利用して仕事を遂行する方法を学ぶことを余儀なくされたときに、頂点に達しました。パンデミック後もデジタル化の流れは続いており、この傾向は留まるところを知りません(McKendrick,2021)。
この課題に立ち向かうためには、企業は社員の学習プロセスを効果的にサポートし、テクノロジーの活用に関する社員のアイデアを引き出す必要があります。Coetzee (2019, p.317) が言っているように、デジタルトランスフォーメーション戦略の実現における組織の成功は、社員の知識と創造的な解決策にかかっているのです。

ここでも心理的安全性と内発的動機づけが登場します。

心理的安全性は、仲間内での知識の共有、質問したり助けを求めたりする際の安心感の向上、テクノロジーのより革新的な使用を通じて、その学習プロセスを向上させることが示されています(Cetzee, 2019; Edmondson, 2019)。
内発的動機づけは、新しいテクノロジーの取り込みにおける効率性と一貫性を向上させることが示されており(Ryan & Deci, 2017)、テクノロジーの実用的な価値の認識の向上、より満足度の高いユーザー体験、ウェルビーイングを向上させるテクノロジー導入の能力の向上など、さまざまなポジティブな体験と関連しています(Partala & Kallinen, 2012; Partala and Saari, 2015)。 急激にテクノロジーを社員に押し付けると抵抗が大きくなり、内発的な動機やその他の質の高い動機が低下するという証拠があるので、内発的動機を強調することは、このパンデミックをきっかけとしたデジタル化へのシフトにとって特に重要であると考えられます(Cetzee, 2016a, 2016b)。


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ホワイトペーパー:心理的安全性を高める “アフターコロナ”の職場づくり


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Melissa Tarantola PH.D

心理学(博士)。
現在Attuned R&Dチームに所属。ミズーリ州立大学コロンビア校にて医療心理学のPH.Dを取得後、複数のベンチャー企業で心理的アプローチによるモチベーション、アディクション研究に取り組んでいる。米国心理学会員。
東京インターナショナルスクールで英語を学んだ経験もある。