リデザインワーク 要約まとめ 〜心理的安全性を確保した組織設計のために〜

新型コロナのパンデミックによってここ数年で多くの企業が変革を余儀なくされました。出社から在宅勤務への移行という『場所の柔軟性』と働く時間のフレキシブル化やジョブシェアリングなどの『時間の柔軟性』が急速に高まっています。

それと同時にオフィスでの何気ない会話のような人と関わる機会が失われ、人と人のつながりの重要性も高まっています。このような不確実性が高まるVUCAの時代には未来を見据え、仕事のあり方を設計し直すことで心理的安全性が確保された環境づくりを進めていく必要があるのです。

ここでは『リデザイン・ワーク 新しい働き方』(リンダ・グラットン著 東洋経済新報社)を要約し、リデザインワーク(Redesigning Work)を進めていくための4段階のプロセスを紹介し、心理的安全性を確保した組織設計のために必要なアプローチをご紹介します。

 
 

リデザインワーク(Redesigning Work)とは?

リデザインワーク(Redesigning Work)とは言葉の通り仕事を再設計し、一人ひとりの社員の能力を十分に発揮できる環境を整えることです。リンダ・グラットンはそれぞれの会社に適した形で仕事をリデザインし、心理的安全性を確保するために以下の4段階のプロセスに分けました。

1 自社の重要な要素について理解する

2 未来の仕事のあり方を新たに構想する

3 モデルをつくり、検証する

4 モデルに基づいて行動し、新しい働き方を創造する

ここからはこちらの4段階のプロセスを順に紹介していきます。(このステップは1〜4で表されていますが、実際はどのステップから始めても良いものです。)

 
 

仕事をリデザインしていくための4段階のプロセス

Step1 理解する(Understand)

社内の人的ネットワークを把握する

まず、新しい働き方をリデザインするためには社内の組織と人の仕組みを理解することが大切です。しかし、在宅勤務が浸透する中で社内の人的ネットワークを育むことが難しくなっています。具体的には若手社員が職場に馴染めなくなったり、給湯室での雑談のような偶然の出会いの機会が奪われてしまうことです。そこで、新しい働き方を導入する前に現状での人的ネットワークを整理する必要があるのです。この整理する上で大切なのがマニュアルのような「明示的な知識」に加えて、人間関係の中に存在する「暗黙知」を浸透させる必要があるのです。


社員のニーズを捉える

働き方のリデザインを成功させるためには一人ひとりのニーズを把握することが大切です。同じ部署でも入社10年目の社員と入社1年目の若手社員では当然仕事への考え方も違いますし、在宅勤務へのストレスも違うのです。ここから言えるのは部門全体で強制的に在宅勤務へと移行するのはリスクが高く、社員の声を聞く必要があるのです。

また、社員のニーズは今だけでなく、未来に何を求めるかも理解していく必要があります。ここでは大きく4つに分けて紹介します。

1 長く健康を保つことのできる環境

仕事を選ぶ際に健康を保つことができるかはとても大事な要素ですが、健康的な働き方とはどのようなものなのでしょうか?長寿医療センターを運営している人に聞くと、毎日運動すること、健康的な食生活を送ること、1日8時間睡眠を取ることのような当たり前の答えが返ってきたのです。

ここからわかることはこのような基本的なことが行えるように仕事をフレキシブルに調整できるようなリデザインが必要なのです。

2 ワークライフバランスを整え、私生活を尊重する

在宅勤務がスタンダードとなると、仕事と私生活の線引きが曖昧になり、難しくなってしまいます。また、女性のキャリア進出も進み、仕事への形は多様化しています。ここで働き方をリデザインする際に押さえておくべきポイントは個々の社員によってニーズは違うため、私生活に関する決めつけを慎むことです。

3 テクノロジーの進化に対応するためのキャリア支援の環境

様々な業務で自動化が進む中、社員のそれに伴う危機感が高まっています。そこで、会社としてリスキリングや新たなスキルを身につける機会を提供できるようにリデザインすることが求められています。

4 マルチステージの人生に対応し、柔軟な想定をする

従来の3ステージ型の人生から40代の人が大学で学び直したり、50-60代の人々がリスキリングを行うようにあらゆる選択肢を取れるようになってきているのです。このような時代には柔軟性が大きな意味を持ちます。職場において自分に合った選択肢を取れることを好むため、そのような環境を整えることが大切になります。


このように、社員の働き方をリデザインするためにはその組織と人に合った仕組みを整えるために業務の特徴やカルチャーなどを理解することが求められているのです。

 
 

Step2 構想する(Reimagine)

ここではStep1での理解を土台にして働く場所と時間についてのリデザインする方法を具体的な例を交えて紹介していきます。

場所と時間の組み合わせで生産性を高める

コロナ禍を経て、働く場所と時間の柔軟性が高まっています。全ての社員を在宅勤務へとする会社もある中で、それに逆行してオフィスでの仕事を増やす動きもあります。例えば、ゴールドマン・サックスが全社員にオフィスへの出勤を求めたり、カナダの年金制度投資委員会が毎年3ヶ月間好きな時間・場所で働くことを認めたりしています。ここからわかるのは場所や時間は生産性を高めるための手段であり、その会社にあったリデザインが必要なのです。


場所の構想例:富士通によるオフィスのリデザイン事例

富士通では新型コロナのパンデミックから「オフィスのあり方」について研究していました。そこで、1種類のオフィスでは完璧でなく、目的別に3種類オフィスの構想の仕方を定義しました。


1 自宅近くのシェアードオフィス

富士通は在宅勤務において社員の自宅近くで、集中できる環境を整えるためにStep3 検証する(Model&Test)の一環として、いくつものシェアードオフィスと契約し、利用できるようにしました。シェアードオフィスは通勤時間の削減に加えて、地域の人たちとの偶発的な出会いを増やすことができ、従来のオフィスとは違う体験を提供できる可能性があるのです。

2 サテライトオフィス

シェアードスペースは満員電車回避という点で大きな利点はあるが、1人で働くための場所であり、チーム内での連携を生み出すのは難しいといえます。

3 ハブオフィス

独創性とイノベーションを促進するためにオフィスの設計を従来から変え、魅力的で気持ちが高まるような視覚デザインを採用したスペースを設けました。これによってチームの生産性や対面の会議の質を上げることが期待できます。


このように、富士通では社員の働きがいと生産性を高めるためにオフィスの設計をリデザインしましたが、これはあくまで一例であり、その会社の課題に合った施策をとることが重要です。

 
 


時間の構想:TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)によるつながりのリズムづくり

グローバルなソフトウェア企業であるTCSはバーチャルでもメンバーとつながる時間とつながらない時間を明確にしています。ここでは2つの具体的な施策を紹介します。

1 毎日定例のスタンドアップ・ミーティング

TCSでは少人数で15分ほどのスタンドアップ・ミーティングを毎日行っています。目的としてはデータに基づいてメンバーの課題を発見することです。プロジェクトの進捗状況を逐一短時間でモニタリングすることで問題の原因を即座に見つけ、解決できるのです。


2 プロジェクトの振り返りの機会を設ける

TCSでは対面で働く場合と同じようにプロジェクトの終わりに振り返りの機会を設け、そこから学んだことや今後のプロジェクトに活かすところまで話し合っています。この際に、過去の他のプロジェクトのデータと比較をしたり、ほかのリーダーとも話し合うことでより良い改善へと活かされるでしょう。

Step3 検証する(Model&Test)

新しい働き方を設計する上で不確実な社会に対応し、未来を正確に描いたものを作っていく必要があります。また、寿命が伸びるにつれて「教育→仕事→引退」という3ステージの人生から柔軟性の高いマルチステージの人生へと転換していくのです。

 
 


上の図のようにこれまでは同世代の人たちと一斉行進するように3つのステージを経験していましたが、これからは人生の道筋を自分で選択することが当たり前になるのです。つまり、人生においての幅が増えるため、より主体性を持つ必要があるのです。


ここでは柔軟な働き方を取り入れ、「新しい雇用モデル」を生み出した日用品・食品大手のユニリーバのリ・デザインワーク(Redesigning Work)の施策を2つご紹介します。



ユニリーバのリ・デザインワーク(Redesigning Work)例


1 柔軟な働き方を全世代に

当然、20代と50代では仕事に求めていることや給料も違うのです。そこで、柔軟性を確保し、一人ひとりのニーズや状況に応じた個別化が必要だと考えたのです。



例えば、学校を卒業して間もない若い人たちは会社の一員としてやりがいを持って働きたいと思う反面、給料を受け取りつつ世界を旅したいと考えていたりします。30代の人たちは会社の仕事と並行して自分のビジネスを本気で始めたいと思っている場合もあります。


こうしたニーズに応えていくためには新しい雇用のあり方を作り出すことが必要だと考えました。それは人材を「抱え込む」のではなく、人材に「アクセスする」という発想に転換することが大切なのです。



2 「Uワーク」モデルの導入

ユニリーバは一人ひとりの働き手が自分なりの働き方や生活リズムに合うプロジェクトを選べるようにした「Uワーク」と呼ばれる雇用モデルを始めました。ここではアダムという若手社員を例に説明していきます。



アダムはサプライチェーンに関する社内のリーダー育成プログラムを終えたばかりでありながら、旅を愛するアダムは仕事と旅を両立させたいと考えていました。そこで、「Uワーク」に登録し、グローバルなサプライチェーンを担当するグループに加わりました。「Uワーク」によって柔軟な働き方が可能となり、旅との両立を実現しました。



また、この「Uワーク」はグループ全体にも恩恵がありました。このプロジェクトのリーダーは恒久的なスタッフを増やすことは望んでいなかったが、スキルとノウハウを持った人材を確保したいと考えていました。アダムはユニリーバの企業文化を理解しており、社内の人的ネットワークを築くのに長けており、雇う側も雇われる側も相互にうってつけの条件であったのです。

Step4 創造する(Act&Create)

優れたマネージャーの役割とは?

仕事をリデザインしていく上でマネージャーは大きな役割を担っています。業務をうまくマネジメントし、社員が快適に働く上でマネージャーの役割は欠かせず、多岐に渡っています。その重要性が増す中で、マネージャーの仕事の設計やサポート体制はそれに追いついていないといえます。そこで、ここでは新しい働き方を導入していく上でマネージャーを助ける上で必要な4つの思考様式の転換を見ていきます。

 
 

1 管理よりも支援へ

従来までのマネージャーの考え方は「私が成功を収めるのを助けるのにチームがある」というのが旧来型でしたが、チーム志向の「チームを成功させるのが私の役割だ」という転換が必要です。メンバーをトップダウンで管理するのではなく、メンバーへのコーチングやフィードバックなどメンバーの成長を支援することが求められているのです。

2 社員のニーズに答える共有する環境づくり

コロナ禍の影響で働き方がフレキシブルになり、時間と場所の柔軟性が増したことからメンバーのニーズを第一に考える発想の転換が必要になっています。例えば、「メンバーの昇進やキャリアに常に関心があり、他部署の異動は私がコントロールする」という考えから「メンバーのコーチングを行い、実現したいキャリアと真摯に向き合って活躍できる機会を見出せるようにする」という手助けする役割が求められているのです。

3 チームの流動性を高める

これまでの画一的なマネジメントの手法から流動的であることを認識し、メンバーが他のプロジェクトで働いたり、他の部署からメンバーを借りたりするというような認識に転換することが必要です。

4 業務を進めるための最善の策を柔軟に考える

働く時間と場所の柔軟性が高まる中で、チーム内の仕事を割り振るだけでなく、業務を実行するために社内外の人材を活用し、使えるリソースを最大限活かすことが大切です。ここではメンバーの仕事の優先順位を考慮し、適切なコーチングをすることが求められています。

心理的安全性を確保した職場づくりのために

仕事をリデザインしていき、柔軟性を高めたその先には社員一人ひとりが働く目的を持って心理的安全性を確保した職場にしていく必要があります。

Attunedでは、心理学者とデータサイエンティストのチームが、仕事に関係する内発的動機づけを洗い出し、クラスター化と検証を経て 11 個に絞り込み、それらの11の内発的動機のことを、動機づけるモノ・コトという意味で「モチベーター」と呼んでいます。

 
 

さらに、55の質問からなるモチベーションアセスメントを受けていただくことで、個人にとってどのモチベーターが最も重要なのか、どのような仕事で最高のパフォーマンスを発揮するのか、どのような環境で最も活躍する可能性が高いのかを示すモチベーター レポートを提供し、心理的安全性の高い職場を作るための手助けとなります。

また、Attunedでは、1on1やワークショップを通じて、企業の心理的安全性を評価し、改善するお手伝いをしています。すでに職場で心理的安全性に課題を感じている場合でも、健康的でモチベーションの高い環境を維持したい場合でも、ぜひ私たちにこちらからご相談ください。

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