「心理的安全性」とは何か?
あなたの組織はメンバーが積極的に発言できる環境ですか?会話や議論が途切れることなく多様な意見が交わされる充実した環境ですか?特に日本では多くのメンバー意見を持っていても沈黙を選んでしまうのが現実です。これは社内での心理的安全性が低いからかもしれません。マネージャーやリーダーだけに原因があるわけではなく、会社の古い伝統や風土にも問題があると考えられます。そこで、心理的安全性を簡単に解説し、向上施策をご紹介します。
心理的安全性(Psychological Safety)とは、所属する組織において、違いが信頼・尊重されていて、新しいアイデアや質問、懸念を率直に話せると感じている心理状態を指します。さらにそうすることに義務感を持っている状態を含みます。心理的安全性を提唱したハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授は、心理的安全性を「社員が共通の目標に集中し、自己防衛や非難にエネルギーを費やすことをやめるよう促すもの」と説明しています。まず、この定義の各部分を深く掘り下げてみましょう。
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チームにおける心理的安全性とは?
従業員が心理的安全性をどの程度感じられるかは、おもにチーム内の環境によって決まると言われています。したがって、同じ従業員でも、あるチームでは「安全だ」と感じても、別のチームでは「安全でない」と感じるということがあり得るのです。チームでの心理的安全性の感じ方に影響を与えるのは、リーダーおよびリーダー以外のメンバーを含む、チームメンバー全員の行動と態度です。より正確には、自分がある行動をとったときに、チームの他のメンバーがどのような反応を示すかという従業員の期待こそが、従業員がどの程度「安全だ」と感じるかを決定するのです。
こうした行動には、知識やアイデアの共有、自分や他人のミスの報告、必要なときに批判的なフィードバックを与えること、自己の真の姿や多様な側面を表現することなどが含まれます。これらの行動は、企業が従業員に取り組んでもらいたい行動でもあります。なぜならこれらの行動は、企業にとって、イノベーションの促進や問題解決能力の向上など、チームパフォーマンスの向上につながります。さらに会社の利益として、離職率の低下、収益と売上の増加などにも効果があります。また、従業員にとっても、ストレスの軽減や仕事への満足度の向上など、福利厚生の向上を享受することができるのです。
心理的安全性への障壁
このような利点があるにもかかわらず、従業員はこれらの行動を「リスクがある」と認識し、不安や恐怖を感じることがよくあります。例えばですが、従業員は上記のような行動をとることに、チームメイトが否定的な反応を示すリスクがあると考えています。否定的な反応には、恐怖を与えるもの、傷つけるもの、屈辱を与えるものが含まれます。例えば、怒りをあらわにする、怒鳴る、からかう、皮肉を言う、無視をすることです。従業員はまた、彼ら自身の行動がネガティブな結果になることを恐れています。例えば、従業員のある行動を見たチームメイトが、その従業員の能力や資質について不当な否定的意見を形成したり、悪意を持って復讐したいと感じたりすることから生じる結果です。そのようなネガティブな結果には、悪い評価を下されたり、昇進や望ましい役割を否定される、ボーナスや給与を減額される、さらには解雇されることさえ含まれるかもしれません。
このようなリスクの認識による不安や恐怖は、従業員に有益な行動をとらせないようにさせるため、パフォーマンスに悪影響を及ぼします。これらの行動を避けることができない場合、従業員は仲間の否定的な反応を引き起こさずにこれらの行動を実行する方法を計画し、準備するために、限られた時間とエネルギーを費やします。さらに、不安やストレスの状態が長く続くと、最適なパフォーマンスを発揮するために必要な認知機能のレベルが低下することを示す証拠が豊富にあります。従業員が職場に行くたびに恐怖を感じ、見下されていると感じてしまうと、最終的にやる気がなくなり、仕事に身が入らなくなり、仕事に打ち込めなくなります。
心理的安全性はどのように機能するのか?
心理的安全性は、このような危機感や恐怖感を取り除くことによって機能します。チームの心理的安全性が高い場合、従業員は自分の意見やアイデアを共有したり、他人の間違いを指摘したりすることに対して恐れや不安を感じません。実際、心理的安全性の高いチームでは、従業員は、アイデアを共有したり他人の仕事の問題を指摘した場合に、仲間が感謝したり報酬を与えたりすると期待しています。
したがって、心理的安全性は、従業員が有益な行動を起こす意欲を引き出し、パフォーマンスを向上することができるのです。従業員はリスクを最小限に抑える戦略を練るのではなく、貴重な時間とエネルギーを生産的なタスクに割り当てることができることで、認知機能を低下させる感情を減少させ、仕事を評価され、活力を感じることができます。実はGoogleの研究でもこの機能性が発表されたのです!
心理的安全性を高めるには?
心理的安全性に最も影響を与えるのは、チーム内の環境であると言われています。したがって、心理的安全性を高めるための手立てとして、まずチーム内の変革を行うべきであり、またそのことに重点を置くべきです。これは、組織レベルの取り組み(全社を招待した人事主導のイベントなど)や個人間の取り組み(個々のマネジャーと上司の関係を変えるなど)と比較した場合です。だからと言って、組織や個人間における関係の介入に価値がないとか、無視すべきだということを意味するものではありません。
チームレベルの変革は、チームメンバー全員が積極的に参加する必要があります。したがって、チームの全メンバーは、チーム改変のプロセスへの参加に招かれ、その参加を評価されていると感じるべきです。例えば協力的な意思決定、透明性、情報と評価結果のオープンな共有、そして、全てのチームメンバーは行動と態度を振り返ることに対して積極的な意欲が必要です。これは、チームリーダーだけが変更や決定を行う取り組みと比較しています。
研究によれば、通常、チームリーダーが心理的安全性に与える影響は他のチームメンバーよりも大きいとされていますが、同時にすべてのチームメンバーが大きな影響力を持っていることも示されています。つまり、チーム全員が関与する必要があり、心理的安全性が低い原因が必ずしもチームリーダーにある訳ではないということです。
Attunedが実施した調査では、従業員の19%が、リーダー以外のチームメンバーが最も心理的安全性を感じない相手であると回答しています。
心理的安全性を向上させるために、何に焦点を当てるべきか?
心理的安全性の向上への取り組みにおける焦点は、チームメンバーの態度や行動に関する、新しいルールを確立することです。取り組みの焦点がルールの改変に置かれている理由は、従業員が前述の有益な行動をとったときに、チームメイトがどのような反応を示すかについて、新しいポジティブな期待を形成するきっかけになるためです。ルールを変えることで、従業員が心理的安全性を感じるようになることができるのです。
例えば、リーダーがミスをしたメンバーに対して、怒る代わりに感謝の言葉を述べるのを見た従業員は、そのようなポジティブな反応を期待するようになります。その結果、安心してミスを報告するようになります。これは、社員が共有したアイデアがすべて称賛され、実行に移されるという意味ではありません。その代わり、従業員が悪いアイデアを共有した場合は、そのアイデアを共有した意欲に対して感謝され、からかわれたり批判されたりすることはないということです。実際、最も効果的なルールがある場合、チームメンバーが悪いアイデアを却下する可能性が高まります。なぜなら、悪いアイデアを却下しても、アイデアの共有者が却下されたことに対して、怒りや悪意を持った反応を示すことを期待しないからで、その却下されたアイデアを改善して実現可能にする方法について、建設的な会話をするきっかけになることを期待するからです。
心理的安全性測定方法とは?
社内の心理的安全性を明確に反映するための診断テストは年々改良されています。Attunedの心理学者チームは過去20年以上の学術研究に基づいて組織の心理的安全性を定量的に評価するアセスメントとレポートを設計しました。合計42問のアセスメントで下の画像のような評価レポートが作成される仕組みになっています。
より詳しく知りたい方はこちらから確認できます。
心理的安全性の作り方5選
心理的安全性に関する科学的文献を検討したところ、新たに従業員の期待を変えるルールを生み出すためにできる取り組みには、5つのパターンがあることがわかりました。
(1) 新しい態度の認識と奨励
まず、組織のすべてのレベルで、心理的安全性への新しいコミットメントが明確に伝えられることが推奨されます。たとえば、これを手紙や情報資料の送付、ディスカッションやプレゼンテーションの開催などで行います。そして柔軟な対応や、相互サポートを提供するなどの行動に積極的に取り組む従業員を奨励し、その行動をモデルにすることが必要です。また、あらゆる立場の従業員を対等な存在だとみなし、多様性や違いを強みとする、新しい価値観の構築が必要です。通常はネガティブに捉えられるような行動に対しても、積極的な態度で意見を述べたり異議を唱えたりすることを褒め、失敗を学びの一部として受け入れることが重要です。特に、上位の地位にある人々がこれらの新しい態度を一貫して示すことが重要です。
(2) 教育とトレーニング
教育とトレーニングの取り組みは、チームメンバーに心理的安全性とその価値について教えることから始めます。
心理的安全が高いチームに必要なスキル、例えば:自己主張、フィードバックの提供、感情的サポートの提供、ミスの特定と報告、個人的なバイアスの認識など、心理的安全性に関するトレーニングも行われるべきです。仕事の役割に関するトレーニングに含めて行うことで仕事上の役割の明確化につながり、従業員の知識に対する自信を高め、厳罰を伴う深刻なエラーの発生を減らすことができます。
(3) コミュニケーションへの新しいアプローチ
特に、コラボレーションとチームワークの重要性と価値を伝え、個人的な関係や友好的な交流スタイルの確立を促進することで、新しいタイプの交流を奨励することができます。ミーティングではチームメンバー全員が積極的な傾聴に貢献するよう奨励され、平等に発言時間が与えられるべきです。コミュニケーションはオープンであり、正直で透明性があるものでなければならなりません。また、ポジティブな言葉を使うことに重点を置き、敬意を持って冷静であるべきです。特に、チームメンバーが間違いを報告する場合、冷静であることと敬意を持つことが重要です。この場合、メンバーはその報告に対して感謝され、非難ではなく解決策に焦点を当てられることが必要です。同様に、メンバーが心配事を共有したり互いに挑戦したりする場合、冷静で丁寧な対応が求められます。
(4) 各チームでの活動
チームに根ざした活動の例としては、チームのルールに関する集団的な意思決定や、メンバー同士がフィードバックし合う機会の創出、ミスや失敗についてのオープンな議論(学びの視点で)、公式・非公式のメンタリング関係などといったサポートシステムの開発、個人的な人間関係の形成を促進するための、仕事に焦点を当てない自由な交流時間の設定が含まれます。
(5) 企業方針の改変
最後に、企業方針を変える取り組みは、主に組織レベルまたはチームリーダーによって実施されるものです。これには、ルールを明確にし、差別を防ぎ、職業倫理を遵守する行動規範を作成することが含まれます。従業員の福祉を尊重する意味では、セルフケアのための休暇を取ることに対して、寛容な方針の拡充も考慮されます。また評価方法は、頻繁で透明性があり、正確で比例的なものでなければならず、訂正が可能であるべきです。またリーダーシップのあり方は幅広いものであるべきで、例えば、リーダーは全てのチームメンバーの参加を奨励し、1人ではなく複数のリーダーを持ち、チームの目標やスケジュールなどの集団的な意思決定を実践し、上位のメンバーに疑問を投げかけることが許容されるべきです。ミスの報告プロセスは明確にし、ミスに対する集団的な対応を重視し、善意のミスが発生した場合は罰せられたり、従業員の評価に影響を与えることは許容されないべきです。実際、ミスを迅速に報告する従業員は、その報告に対して報酬を受けるべきとされることがよく提案されています。
まとめ
俗にいう「ぬるま湯組織」とは違い、心理的安全性は従業員の意識や成長意欲の向上を促進する大事な要素です。心理的安全性を高めることで課題の早期発見やミスコミュニケーションを防ぐなどのメリットがあります。これにより、エンゲージメントの強化から生まれる社員のやりがいも高まり生産性の向上が期待できます。ぜひ上記で紹介した心理的安全性の作り方を実践してみてください!
もっと知りたいですか?
「心理的安全性を高める“アフターコロナ”の職場づくり」(ダウンロード資料)
エイミーエドモンドソンが明かす、心理的安全性と内発的動機の相互関係
Melissa Tarantola Psychologist
Acquired her Ph.D. in Clinical Psychology from the University of Missouri.
Currently working with the Attuned research and development team with a focus on psychological safety.