目標達成のために内発的動機づけを活用する方法とは?

『Get It Done 』の著者でモチベーション研究家のアイレット・フィッシュバッハ氏とのQ&A

どうすれば、目標を達成し、それを正しいと感じることができるでしょうか?

アイレット・フィッシュバッハ博士

シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスにおいて行動科学とマーケティンの教授を務めている

このQ&Aでは、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスで行動科学とマーケティングを教えるアイレット・フィッシュバッハ教授と、彼女の著書『Get It Done: Surprising Lessons from the Science of Motivation(未邦訳)からの洞察を紹介します。この本は、彼女自身の研究や、数十年にわたるモチベーションの科学から得た実例やアイデアがぎっしりと詰まっています。

この記事を読んだ後、あなたは「目標勾配効果」や「等価手段」が何であるかや自分自身をより理解し、簡単に目標に向かって進むためのコツを手に入れることができればと思います。

(インタビューは簡潔かつわかりやすくするために編集されています。) 


Get It Doneの中で、「内発的動機づけは、動機づけの科学で最も理解されていない概念である 」と書かれていますね。それはなぜでしょうか?

アイレット・フィッシュバッハ氏:それは、歴史的な理由と難しい概念だからです。

私たち研究者は、まず動物実験から内発的動機づけの研究を始めました。ネズミは餌の報酬を期待していなくても目標への道を探ります。そして長い間、内発的動機づけとは好奇心を持つことであるという混乱が生じていました。

もうひとつの混乱の原因は、生まれながらにして持っている内発的動機と子どもの頃や社会で育つ過程で学び、身につけていく内発的動機を区別していることです。例えば、人はお金を追い求めることを学びます。しかし、人間関係の目標や、他の人とつながりたいという気持ちは人間が学んでいくものではありません。これが歴史であり、内発的動機づけとは何かということです。

内発的動機づけとは、それ自体が目的であり、何かをすることで得られる価値を追求することであり、何かをすることで後で報酬を得ることとは異なります。何をするにしても、それが正しいと感じ、そのためにやる気が出るなら、内発的動機づけになり得ます。しかし、それが全ていいとは限りません。アイスクリームを食べることは、内発的動機づけになり得ますが、それはあなたにとって良いことではないかもしれません。

どうすれば、内発的動機づけを意識できるのでしょうか?

アイレット・フィッシュバッハ氏:まず目標を持って、内発的動機づけの強い道を選ぶのです。例えば、運動することが目標であれば好きな人と一緒に、楽しくできる運動を見つければいいのです。そして、しばらくすると、新しい刺激的なものに変える必要があるかもしれません。

もうひとつの方法は、タスクに内発的なインセンティブを与えることです。例えば、宿題をするときに音楽を聴きながらやると、より効果的であることに気づくかもしれません。

3つ目の方法は、すでにある内発的動機づけに注目することです。これは単なるフレーミングであり、精神的な集中力です。例えば、一番健康によさそうなニンジンよりも一番おいしそうなニンジンを選んでもらうとより多くのニンジンを食べてくれることがわかりました。

では、楽しさを求めることが大切ということでしょうか?

アイレット・フィッシュバッハ氏:そうです。また、楽しさだけでなく、やりがいのような他のポジティブな感情が内発的動機づけにつながることもあります。私が救急外来の医師と話した際に、その医師の方々は、緊急治療室で仕事をすることは、非常に内発的な動機づけになると言っていました。これは楽しいことではありませんが、生と死が決定される場所であり、自分が変化をもたらすことができる場所であると感じているからなのです。そのような環境では、フロー状態であり、自分にとって正しいことをしていると感じるのです。

リフレーミングは、自分がやっていることを自覚していれば、うまくいくものなのでしょうか?自分自身を「騙す」ことができるのでしょうか?

私たちは、自分自身に完全に影響を与えることができます。偏見によっては、自分がやろうとしていることを積極的に知っても、物事の見方を変えることはできないかもしれません。でも、自分がやっている活動に音楽を取り入れることで、より内発的動機づけになるとわかっていれば、問題ないでしょう。その体験の何が楽しいか、その瞬間に集中しようとすると意識してやってもできるんです。

この本の中で私が一番気に入ったのは、最後の章、「目標が幸せな人間関係を作る」という話です。

アイレット・フィッシュバッハ氏:人間関係の研究者とモチベーションの研究者がこの10年ほどの間に発見したのは、同じ現象を2つの異なる視点のもとで研究していることが多いということです。基本的に、私たちは自分の目標をサポートしてくれる人に近づき、自分の目標をサポートしてくれない人からは離れていきます。非常に基本的なことですが、私たちが社会的なつながりを持つのは、人生で物事を達成するのに役立つ人々を探しているからです。

経済的な支援というわけではありませんが、「私のことを信じている」「私の成功を願っている」「私は成功できると思っている」という親からのサポートがあるかどうかが、学業成績を左右することがよくあります。もし、親が子どもの目標の達成をサポートしない場合、家族が離れていくのがわかるでしょう。

つまり、周りの人たちが自分の目標を知る必要があるということですよね。10代や20代前半のころは、夢を自分の胸にしまっておいたり、計画が完璧になるまで誰にも話さなかったりすることが多かったと記憶しています。でも、目標を人に伝えることで、絆が生まれるんです。

アイレット・フィッシュバッハ氏:目標を人に話さない理由は、「応援してくれないかもしれない」と思うからでしょう?また、批判されるかもしれないと思ってしまうのです。誰かに目標を伝える必要があるのは、モチベーションを維持するために社会的なサポートが必要だからです。もしかしたら私たちの見識が正しくて、彼らがサポートしてくれないかもしれません。しかし、もし彼らが知らなければ、サポートされる可能性はゼロなのです


💭 A-HA 体験

『Get it done』の14章にある思考実験。

「友人、兄弟、恋愛相手からひとりを選んで、次の3つの質問にどう答えるか考えてみてください。

1 あなたはこの人の目標や願望をどの程度知っていますか?

2 この人はあなたの目標や願望をどの程度知っていますか?

3 あなたはこの人との関係にどの程度満足していますか?

ジュリアナ・シュローダーとのこの実験では、質問1と2への答えと質問3への答えを別々に予測することが明らかになりました。[...] 

私たちは皆どのような関係においても、どれだけの知識が存在すると仮定するかについてもっと控えめになる必要があるのです。彼らの目標を支援し、親密な関係を維持できるために、人々を知ることに特別な注意を払うべきです。」


特定の目標に到達するために報酬と罰を用いることのリスクはありますか?

アイレット・フィッシュバッハ氏:何かに取り組むには理由が必要なので複雑ですが、あまり多くのインセンティブは必要ありません。過去の過剰な正当化の研究(英語)では、絵を描くことにご褒美を与えるとそのインセンティブがなくなると絵を描きたがらなくなるという指摘がなされています。

正当化は必要ですが、過剰な正当化は必要ないのです。その差は微妙なもので、インセンティブがその活動に合っているのか、それとも楽しみを奪う過剰な正当化なのかを判断しなければなりません。

あなたの研究は、日常生活でどのように役立っていますか?

アイレット・フィッシュバッハ氏:私の研究によると、「目標設定」「目標に向けた進捗状況の確認」「他の目標や、自分がやろうとしていることが人生の他のあらゆることとどう調和しているか」「ソーシャルサポート」この4つが必要な要素なのです。

本を書くのは新しい挑戦でした。執筆に取りかかる前に、100本の実証的論文(英語)を書き、この4つの要素について考えてみました。現実的でありながら、やりがいがあり、内発的動機づけとなる目標とは何か?そして、私を助けてくれるのは誰なのか?自分の生活とどう折り合いをつけるか?

私にとって、それは単に生産的であることではなく、自分を幸せにすることなのです。モチベーション理論を知ることは役に立ち、自分に当てはめられるのです。

 

💎 その他 “Get It Done” の貴重な情報 

目標設定について

「目標に到達するために取る手段ではなく、何を達成しようとしているかに焦点を当てることで、よりエキサイティングな気分になれるのでは?」

インセンティブについて

「インセンティブが裏目に出ないようにするには、その活動を行う理由について、見知らぬ人がどう推測するかを考えてみてください。もしインセンティブがこの見知らぬ人を迷わせ、あなたがその活動を行う理由が常に頭の中で明確でない場合は、このインセンティブを見直すことを検討する必要があるのです。」

進捗状況のモニタリングについて

「初心者であれば、グラスが満たされていくのを見守り、エキスパートであれば、グラスが空になり始めたらチェックするのです。」

傷ついた自我を乗り越えて、努力を続けることについて

「何か新しいことを始めるときは、まず他の人が失敗しているのを見るようにしましょう。例えば、編み物教室に参加した時に、他の編み物初心者が悪戦苦闘しながら編み目を覚えていくのを一緒に見るのもいいかもしれません。」

複数の目標を両立させることについて

「目標が自分のアイデンティティの中心にあるのか、追求することが道徳的、倫理的な問題だと考えているのかという場合は優先順位をつけるようにしましょう。」

目標と人間関係について

「パートナーや友人と疎遠になりつつあると感じたら、一緒に努力できる新しい目標を見つけることで、絆を深めることができるかもしれません。」

さらなる情報をお求めの方は、chicagoboothのウェブサイトにあるAyelet Fishbachの「tiny course」(英語)をご覧ください。

さらに、内発的動機づけの世界に関するタニアの洞察を知りたい方は、SubstackニュースレターのWhy Would Anyone(英語)に登録してみてください!

 

Tania Rabesandratana

Science Journalist & Attuned Writer Fellow 2021