感謝のリーダーシップ 〜リーダーシップとは、他者に投資することである〜

 
 

チームをリードしていく上で相手に感謝の気持ちを伝えることは時に誤解を招いたり、過小評価されることがあります。ここでは、社員のモチベーションを上げ、リーダーシップにおいて感謝を活用する方法について、考察をご紹介します。

私は日頃リーダーシップ・コンサルタントとして働く中で、顧客から信頼されるパートナーとはどのような姿なのかをよく考えます。様々な人々から聞いた、あるエピソードのなかで強く印象に残っているのは「感謝」に関してです。私はチームのリーダーがリーダーシップを最大限に発揮するためには何が必要かを考えてきました。


リーダーへの感謝

ある日、私は経験豊富で優秀なリーダーの相談に乗る機会がありました。彼女は高い評価を受けていて、ボーナスも十分にもらっているが、組織内でリーダーシップを発揮できていないと感じると説明しました。
具体的には、彼女はある程度メンバーからの尊敬を感じていた機物の、潜在的な組織への貢献が十分に評価されていないと思っていたのです。

彼女がパフォーマンスレビュー以外の具体的なフィードバックを定期的に受けておらず、自分の意見を本当に聞いてもらえると感じるようなフィードバックも十分に与えられていないと感じていました。彼女は自分の知識やスキルがもっと評価されれば、組織の成長と成功にもっと大きく貢献できるはずだと強く信じているにも関わらず、です。
このように、感謝を示す機会の欠如、不足は、結果として組織に対する彼女の価値を下げていることになるのです。あるリーダーは、自分のチームに対する最大の願いは、互いの努力を認め合い、成長に必要なことを認識し、率直なフィードバックを交換して積極的にサポートや指導を行うようになることだと話してくれたことがあります。感謝するという行動の欠如は組織の日々のパフォーマンスと成長の可能性を低下させていると彼は考えていたのです。 

投資としての感謝

 
 

また若手や管理職以下の社員には、別の側面から「感謝のリーダーシップ」の必要性を感じることがあります。  

数年前、私が若手から中堅までの社員を対象にした調査データを見直したとき、回答者が上司に「もっと」望むこととして最も多かったのが、「自分のやっていることに対して上司が具体的にどこが嫌だと考えているかを教えてほしい」だということに、最初は非常に驚きました。私は、部下はもっと褒めてほしいと思っているとばかり思っていたのですが、彼らはむしろ上司からの批評的で率直なフィードバックを望んでいたのです。

つまり、上司が部下に高い投資をすることをためらうと、その分部下からのリターンが少なくなるということが見えてきたのです。

「私はあなたに感謝します」という、どこにでもあるありふれた表現となっている今、リーダーは感謝の気持ちを伝えることを不可欠なリーダーシップのツールとして受け入れることが大切です。

言葉としての「感謝」は様々な意味を持っています。その意味には、「功績を認める」「賞賛する」「称える」「価値を高める」といった意味が含まれています。

これを簡単に3つの言葉で表すと感謝するということは、

(1)あなたのことを気にかけている、

(2)あなたのことを正当に評価している、

(3)あなたの成長に投資している、という3段階に分けられるのです。

また、この3つの定義を「投資尺度」として捉え、(1)あなたのことを気にかけているは投資が少ない状態、(3)あなたの成長に投資しているは投資が多い状態であるのです。

つまり、投資度が高い行動とはより弱さを必要とする行動ということになります。

私がこの投資尺度のレンズを通して感謝の定義を見るようになったのは、故アーヴ・ルービン博士の行動学の研究からです。彼はM.I.T.の行動科学者で、人間がポジティブでWin-Winの交換につながると認識する特定の行動を発見する研究をしていました。その研究の一環として、彼は感謝に関連する6つの特定の行動を投資レベル別に整理しました。以下はそれをまとめたものです。

 
 

感謝するのルービン博士の研究と言葉の辞書的定義を結びつけ、リーダーシップチームと対人コミュニケーションにこれまで取り組んできた私自身の観察の全てを結びつけたとき、まさに私にアハ体験が訪れました。

また、ここで注意したいのは低投資の行動はあなたが相手のしていることに注意を払っていると伝えるということです。あなたが喜んだり、不機嫌になったりしているのがわかると、あなたが私を見てくれていることがわかるのです。これは、無視されるより確実に好ましいことなので、「低投資 」であって 「無投資 」ではありません。

成長のための行動変容

 
 

先ほどの「過小評価されたリーダー」の話に戻ると、彼女は上司や他のリーダーの満足度は知っていましたが、自分の能力についての具体的な評価が不足していたのです。つまり彼女から見た上司のリーダーシップはほとんどが低投資レベルであり、時々中投資をする程度であったのです。彼女の上司やリーダーシップチームのメンバーが、彼女のチームへの潜在的な貢献度を高めるためには、中・高投資の行動に焦点を当てることが最も効果的な方法です。よりオープンで誠実なやりとりをすることで、彼女は単に見られているというだけでなく、より十分に評価されていると感じることができるようになるでしょう。高投資の感謝があってこそ彼女は、自分のリーダーシップが本当に自分に投資されているのだという確信を持つことができるようになるのです。

またもう1つの例は、低投資のレーンから抜け出せないリーダーシップチームです。低投資の結果、チームに不満を持つ人が増加し、この間違った思い込みを解消するための次のレベルの投資も行われませんでした。

そこで私は、もうひとつの重要なインサイトを得ました。仮に低いレベルの投資行動からスタートしても、それ以上の投資がなされなければ、減価償却効果が生じるのです。つまり、チームメンバーやマネージャーが、その評価の根拠をさらに説明せずに、満足や不満を表明すると、相手はなぜその人が喜んだり不機嫌になったりしたのか、自分の思い込みに任せることになるのです。
このような思い込みが時間が経つにつれて、信頼を失うことにつながってしまいます。

私たちは共に学び、成長するか、あるいは離れていくかのどちらかです。

これほど高い割合の直属の部下が、常に上司から中程度の投資行動を優先しているのも不思議ではありません。多くのマネージャーが低投資のレベルに留まっているからです。

満足や不満の根拠を打ち明けて共有することは、当然ながら躊躇や恐怖を伴いますが、行動した時の見返りは非常に大きいものです。

現在クライアントと仕事をするときや自分のチームを率いるとき、重要な人間関係における自分(あるいはクライアント)の現在の投資レベルを評価するための素晴らしい指針として、投資表の行動を発見しました。

私は、満足と不満を説明することなく表現していないだろうか?他者からのフィードバックを潔く受け止め、自分の間違いを謝っているだろうか?これらはシンプルで強力な質問であり、リーダーが持つべき最高の投資に関する洞察を提供することができます。 

最後にもう一つ関連する洞察を。私が出会った多くのマネージャーは仕事量のプレッシャーのなかで、チームメンバーの一人ひとりとの時間を効率的に使い、彼ら特有のコミュニケーションのニーズや好みを把握する方法を知りません。たとえマネージャーが高いEQを持つ柔軟なコミュニケーターであったとしても、直属の部下が上司との会話で自分のニーズをあまり明確に表現できるとは限りませんし、その気もないことが多いのです。
誰もが個性的であるため、Attunedのような個人のモチベーションを可視化するアセスメントを使用して、チームメンバーの動機づけに関する情報を収集することは、彼らの成功のためにさらに投資するための素晴らしい出発点となり、非常に効果的であると言えます。

そして何より、リーダーシップとは、他者に投資することであると考えるのが賢明であると思います。すぐに成果が出るわけではありませんが、時間が経てば評価され、感謝されるようになるのです。


Matt Stone

CEO, BehavioralOS®

matt.stone@behavioralos.com

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